第七話 大団円


世界は静寂に包まれていた。


大阪城が見下ろした場所。

そこに、真っ赤な血が広がった。


「くそ……人間風情が……」

 緋毀が、膝をついた。


 大鎌の構えをとかない楓と、日向が、その正面で、緋毀を見下ろす。


 緋毀は、ゆっくりと日向に手をのばす。


「龍、お前は、悔しくないのか……飼い殺されて、憎くないのか……」


 緋毀が言葉をはっする度に、その口から血がこぼれる。


「あいつを、あいつを、殺した……い」

 そう手をのばした緋毀に。

 楓が一歩近づいた。


「最期の言葉だ。良く選べ」

 楓が、大鎌を構えた。

「帝様と、兄上に、あやまれ」


 膝をつき、左腕しか伸ばせない緋毀は、ゆっくりと目の前に立つ楓を見上げて。

 そして。

「くたばれ、戌」

 そう、笑った。

 ガッ

 灰色の空に、真っ赤に燃ゆる髪の緋毀の首が、飛んだ。


 音が、消え。

 ザッ

 その首が、地に落ちた瞬間。

 再び、この世に地響きのような歓声が響いた。


 緋毀を倒した。

 大阪を倒した。

 楓が、勝った。


 白い軍服の隊員も、黒の軍服の隊員も、両手を突き上げ。

 赤い軍服の隊員も、死獅も、降伏した。


 戦争は、終わった。


 緋毀の亡骸のもとに、六死外道が揃った。

 天道の四国の姉様、翠。

 人間道の関東の、綴華。

 餓鬼道の東北の、蘭。

 修羅道の中部の、日向。

 畜生道の関西の、亡骸になった緋毀。

 地獄道の九州の、遊虎。


 五人は向き合った。

「今回の戦の立役者で、勝利者の龍、お前はこれからの世界をどうしたい?」

 餓鬼道の蘭が、そう問うた。

「世界を、平和にしたい」

 日向は、そう告げた。


「ああ、もう、戦争は必要ない」

 そう、幼い声が聞こえた。

 五人が振り返れば――


 そこには、美しい黒髪の少女がいた。

 一目でわかった。

 この人が、帝だと。

 

 ザッ この場にいる、全ての人間が、跪いて、頭をたれた。

 そうしないと、いけないと、本能が、身体がわかってしまった。


 楓は、帝の側に控え、その存在を守っている。

 帝は、ゆっくりと、緋毀のそばに歩み寄った。


「童の祖先の魂を分け、その器にした。世界の被害者だ。彼には悪いことをした」

 そう、つぶやいた帝は、その首の見開いたまぶたを、ゆっくりと閉じた。


「これからの世は、六死外道の子孫にたくそう。童の時代は、もう終わりだ」

 そう、つぶやいて、帝は、五人の子孫を一人ずつ見つめた。


「天下統一をし、世を、平和にしてくれ」


 帝は、この世の政治から身を離し。

 全てを、日向たちに任せると言った。


 これから、新しい時代がはじまる。



 灰色の空。

 厚い雲が、ゆっくりと割れた。


 そこから、美しい陽の光がさしこんで。


 帝と楓、そして、五人を照らす。


 世界は、変わる。

 これから、戦のない、平和な世界へ。


「任せたぞ」


「「「「はい!」」」」

 そう、日向たちが力強くうなずいたとき。



 ザッ

 世界を凍らす殺気。

 そして、だれも、反応ができなかった。


 黒い髪の少年が、目の前の少女に、


 そう、が。


「お前が、死ななきゃ、意味がない」

 

 真っ赤な血をあびて。

 遊虎が笑った。


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