第六話 旧友との共闘


「阿修羅螺」

 日向は、もう、血を流さなくても、阿修羅を呼べる。

 まぶたを閉じて、ゆっくりと身体の内側の、もう一つの”魂”の阿修羅を呼び起こし。

 そして、一体化する。

 ゆっくりとまぶたを上げた日向の眼には、四つの焔が灯っている。


 大量の死獅が、日向を襲う。

 紅と黒と白が入り乱れる。

 人々の足音や叫び声が、轟音となり、世界を揺らす。


 日向は、黒菊刀を振り回していく。

 その背後で、遊虎が、紅の敵をなぎ倒していく。

 ドォオンッ

 遊虎の武器が、そのひとさし指を少し動かすだけで、大量の死獅をはじきとばす。

「文明の利器だよ、龍ちゃん」

 重機をあやつり、人や死獅をなぎ倒す。

 ひどく無機質で、そして脅威のもの。

 日向は背中を合わせながら、すこし怖くなった。


 そして、大量の死獅を斬りながらも、日向の意識は、すこしはなれた場所にあった。

 そこにいる、桜銀色の髪をした、楓に。



 ガルルルルッ

 巨大な獣に変わった緋毀の体格は二倍に拡大し、その威力も増した。

 その真っ赤な剣を受け流すのは、美しい大鎌と、中鎌。そして、それをつなぐ鎖。

 楓は、冷静に、そして確実にしとめる眼をしている。


「なあ、目の前で、兄を殺された気分はどうだった? お前はそれだけのために、俺の部下になり、名古屋にまでとばされた」

 嘲笑う緋毀にも、楓はひたすら冷静に対応する。


 楓と緋毀は互角だった。

 鎌と剣の激しくぶつかり合う音が響く。


「なあ! 帝の戌!」

 一瞬のすきをついた緋毀が、楓の右肩を、剣でえぐる。

「ぐあっ」


 肩をおさえた楓に、追い打ちをかける緋毀。

「もう、お前は用済みだ。龍も見つけた、帝も殺す。これからは、俺の時代だ」

 そう言って、楓を地面につき倒し。

 その右肩を足でおさえた。


「なあ、良い眺めだなぁ。お前の兄も、同じように見下ろしたのを思い出す」

 そう笑った瞬間――


ガッ

 黒い刀が、緋毀の左腕を斬った。


「それ以上、しゃべるな」

 日向が、黒菊刀についた血を払った。


 真っ赤な血を流した緋毀が、ゆっくりと振り返る。

「龍、なめた口きくんじゃねえ」


 真っ赤な眼が、日向を射貫く。


 黒い空気が、一瞬にして、戦場に満ちた。

 その覇気に、戦場が、静まった。

 皆、動けなかった。

 緋毀と日向と、楓の三人の決戦が、全てを決めるものだと本能でわかったのだ。



 隙をついて、緋毀の足元から抜けた楓が構える。


「楓、大丈夫?」

「……ああ、助かった」


 その言葉に、日向はニッと笑った。


「また、楓の役に立てた」

 その言葉に、その日向の表情に。

 楓は、眼を見開いて。

 そして。

「ふっ あんさんは、ほんま、どうしようもないな」

 笑った。


 今度は日向が眼を見開いた。

 日向は、またニカッと笑って。

「楓の友達だからね!」

 楓の右となりに並んで、刀を構えた。


「ぼくは――わたしは、楓のとなりを歩いて、となりで肩を並べて、一緒に戦う、戦友だ」

 楓も、鎌を構える。


「だから、楓、絶対に緋毀を倒すよ」

「あたりまえや」


 はじめて、名古屋城の城下町で出会ったときのように。


 楓と日向は、同時に地面を蹴った。


 楓が大鎌を、緋毀に振りかぶる。

 同時に、日向も振りかぶる。


「阿修羅螺!」

 

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