第五話 会わぬ花あれば会う花あり


「楓……生きてたんだ」

 日向の頬に、涙が流れた。


 日向の目の前には、白服の創立者であり、総帥として白い軍服を着た、六花泉楓が立っている。

 その配下に、五人の幹部のようないで立ちの男女が並び。

 その背後に、数え切れないほどの白が、大阪を覆っていた。

 楓は言った。


「時は来た」


 その言葉に、世界が揺れた。

 地響きのように、人々が雄たけびを上げ、両手を上げる。

 白に、紅が交ざった。

「この時を待っておりました」

「いまこそ、帝の時代を再び」

 紅の軍服を着た大隊員が、突然、そう叫んで、軍服の上着を脱ぎながら、白菊軍の中に入っていく。


 そして、黒菊軍からも。

「え、どういうこと?」

 100以上もの隊員が、瞳を輝かせて、白菊軍に入っていく。


 皆、この”時”を待ちわびていたように。


 この日本大陸中に、白菊軍はいたんだ。

 楓がずっと準備をしていたときから、ずっと。

 いろんな場所で、それぞれが、この時を待ちながら、”帝”を待ってたんだ。


 楓のもとには、白い軍服を羽織った、茶色のシャツや青いシャツを着た、東北や関東の軍隊もいる。

 そこに、四守隼の姿もあった。

 同じように身体中に刺青をした隼に似た兄姉が、東北の穢縢蘭を囲んで立っている。


 そうか、東北と関東の、六死外道の子孫は、白菊軍についたんだ。


「楓!」

 日向が、一歩、前に出たとき。

 その腕を、遊虎がつかんだ。

 でも、日向は楓だけを見ていた。

 

 楓の目は、日向には向かない。

 それでも、日向は笑った。


「生きててよかった!」

 そう、大声で伝えた。

「日向」

 遊虎が、日向の腕を引く。

 その瞳は、楓を呪い殺すようにするどかった。


 楓は、一瞬だけ日向を見て。

 ゆっくりと顔を上げて、大鎌を掲げた。


「我々、白菊軍の目的は、大阪城を落とし、大阪の王、緋毀の首をとること。そして、大阪の支配を解き、我々白菊軍が治めること」

 地響きのような歓声が響く。


「黒菊軍の隊長、迦楼羅遊虎。」

 楓は、正面にいる遊虎を見た。

「いま、大阪を落とすという目的が同じなら、邪魔はするな」


 そう告げた楓の肩に、鷹がとまる。


「はっ 本当に、おれはお前が嫌いだ」

「遊虎、協力しよう、一緒に戦おう!」

 日向の言葉に、遊虎はするどい瞳をしたそのとき――


ドンッ

 激しい衝撃が、地面を揺らした。


「はっははは、あいつ(帝)の影武者に、地獄の遊虎、阿修羅の日向、人間の綴華、餓鬼までそろうとはな」

 真っ赤に光る剣を、地面にさした緋毀が、声を上げて笑う。


「そんなにそろって、俺を殺しに来たわけか」

 緋毀がにやりと笑う。

 その覇気に、日向たちは、こぶしをにぎる。


「なあ、帝もいるのか? 殺しそこねた、あのクソ野郎は」

「口をつつしめ」

 楓がこぶしをにぎる。

「なあ、影武者の楓。お前の兄の柊には、騙されたぜ。まさか、あいつが影武者だったなんてな。俺たちは、本当の”帝”に会ったこともなかったってことだ」

 緋毀が笑う。


「俺たちを飼い殺してた本人すら、偽物だったなんてな。知ったときはしてやられたぜ。お前ら兄弟、本当に気に食わねえ」

 日向は、思い出す。

 たしかに、記憶のなかの帝は、楓に似てた。

 あれは、楓の兄の、柊だったんだ。

 そして、影武者だったんだ。


「なあ、本物はどこだよ」

 緋毀が、楓に近づく。

 その瞬間、五人の配下が、瞬時に楓を守るように、緋毀に得物を向ける。

「わたしが言えるのは、一つだけや」


 楓は虫を見るような眼で緋毀を睨んだ。

「お前を殺すのは、わたしや」

「はっははは! 傑作だ。お前も、兄と同じように、さらし首にしてやるよ。そしたら帝も出てくるだろ」


 大鎌と中鎌を構えた楓。


「なあ、遊虎、お前も帝を殺してやりたいんじゃねえか?」

 緋毀が、楓から目をはなさず、剣をかまえる。


「さあ、まずはお前を殺すことしか、いまは考えてないよ」

 遊虎はけろっとこたえる。


「はっ いつまでも目障りなやつだ」


 日向も、黒菊刀をぬいた。遊虎は、巨大な斧を。

 緋毀は、剣を。

 楓は大鎌を。


 四人が、それぞれに向き合った。

 そして、それぞれの隊員も。


「我々、白菊軍は、大義のため、国のため、大阪国をつぶします!」

 そう高らかに宣言した楓の声に。


 世界が、轟いた。


 最終決戦、開始!


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