第13話 お前ら、あの祠を壊したのか!
ふたたび魔法陣に吸い込まれて部屋に戻ってくると、創始の聖女様のお姿はなく、剣士だけが残っていました。彼は不機嫌極まりない表情でわたくしたちを出迎えました。
「二人で密談か。呑気なものだな」
「国家の命運を決める重要な話し合いである」
「話し合い、ね……」
ジオ司祭が剣士をたしなめますが、効果は薄いようです。
イケメンとイケオジがやり合っている姿というのは、漫画にするなら興味深い要素ですが、現実となると少々胃が痛くなるものです。
現実逃避に窓の外を見ると、石造りの壁が見えました。先ほどジオ司祭と話しているときに屋外で見た石壁と同じようです。
なるほど、わたくしはずっと城内にいたのですな。日本のお城はいくつか行ったことがありますが、西洋のお城は初めてなのでワクワクしますぞ。
「それで? 結局その聖女は残るのか」
「さよう。ありがたいことに、お力を貸してくださるとおしゃってくださったのだ」
「……ふん」
お二人とも、もう少し仲良くしていただけませんかね?
とくに剣士のほうには友好的な態度をお願いしたく。これではおちおち現実逃避もできませぬ。
ここは聖女としてわたくしが一肌脱ぎましょう。
世界平和のために、まずは目の前の喧嘩を仲裁しますぞ!
というわけで、やや強引に話題を変えて見ることにしました。
「あの~、ジオ司祭。お願いがあるのですが」
わたくしが声をかけると、ジオ司祭は人好きのする微笑みを浮かべました。
「おお、聖女様! なんなりとお申しつけください!」
「このままこちらの世界へ残るとなると家族を心配させてしまいます。なので、いったん帰らせていただけませんか? またすぐ戻ってきますゆえ」
あと、友人にも連絡を取っておきたいですし、SNSにもしばらく留守にする旨を投稿しておきたいです。それに、大学の講義や休みの日程、テスト期間なども確認しておきたいところ。
わたくしのお願いに、ジオ司祭は両手を広げ、大きく頷きました。
「……なるほど、元の世界へ帰る方法をお知りになりたいと! そういうことでございますね」
「ええ、まあ、そうなるのでしょうか」
ん? なんだか引っかかりますな。
帰る方法がどうこうというよりも、帰ること自体がメインなのですが。
この世界へ来たときは例の魔法陣でシュポッと簡単に来てしまったので、帰るのも同じような感じかと思っていましたが、違うのでしょうか。
わたくしの不安を読み取ったのか、ジオ司祭は何度も頷きます。
「おお……私の説明が足りぬばかりに、不安なお気持ちにさせてしまい申し訳ございません。ですが、どうかご安心ください。元の世界へ帰る方法はきちんとございます!」
「それはなにより。ちなみにどうすれば?」
「オルルン神殿にある【星の祠】で送還の儀を行えばよいのです」
オルルン神殿と、星の祠。
おおっ、いかにもファンタジーっぽい響きですぞ……!
あと「次の満月の晩まで待たなければならない」とか「特殊なアイテムを○個集めなくてはならない」とか「術者の寿命が半分になる」とか、そういう系ではなさそうで安心しました。
しかし、ほっとしたのも束の間。
なにやらいかにも事情のありそうな様子で、ジオ司祭は言葉を続けます。
「ところが、なんと」
「ところがなんと!?」
「今は諸事情によりすぐお帰りいただくことができないのでございます」
「な、なんですとーッ!? そ、その諸事情とは!?」
ん? テレビショッピングのようなフレーズに思わず乗せられてしまいましたが、なんだか雲行きが怪しくなってきましたぞ?
「近年モンスターたちが凶暴化している、というのは先ほどお伝えした通りですが、奴らは各地で破壊の限りを尽くしているのです。おかげで畑は荒れ果て、建物は無残に破壊され、人々の命までも脅かされています」
……建物が破壊されている?
うわ~、なんだかめっちゃ嫌な予感がしてきましたぞ!?
「つ、つまり?」
「なかでもオルルン神殿の被害は甚大なものでした。祠はモンスターの手により粉々に破壊され、未だ再建の見通しは立っていないのでございます」
「こっ、粉々に!?」
「いやはや、なんとも凶悪な奴らでして。私どもも手を焼いておりますのじゃ」
モンスター! お前ら、祠を壊したのか!
これが日本なら、祟られてしまいますぞ!?
「……再建は難しいのですか?」
「そのことについてですが、神殿は今やモンスターのねぐらになってしまっているようなのです」
「なんですとッ!?」
粉々に破壊したばかりでは飽き足らず、神殿をねぐらにしてしまうとは……!
この世界の神よ、どうかモンスターに祟りを! うわーん!!!
「困難はそれだけではございません。祠には特殊な鉱石が素材として使われておるのですが、実はその鉱石が採れる場所にもモンスターがはびこっておりまして、おいそれと近寄れない状況なのです」
……なるほど。だんだん状況がつかめてきました。
まず、元の世界へ帰る手段はある。
帰るためには神殿で儀式をする必要があるけれど、その儀式に使われる神殿や祠はモンスターによって破壊され、なおかつ現在はモンスターに占拠されている。
さらに、祠を建て直すためには特殊な素材が必要だけど、こちらも素材がある場所にはモンスターが居座っている、と。
つまり、元の世界へ帰るためには、モンスターに占領されている場所を取り返すという高難易度(?)ミッションをクリアする必要があるということですな。
詰んでませんか、これ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます