14.元女神、見学しに来ました
ゴールデンウィーク3日目。
「初めまして早乙女ドロシーです!」
学術サークルに参加する千景が目を丸くして元女神をまじまじと見つめていた。
その他のサークル参加者も言わずもがな。
日本ではあまりなじみがない名。名もそうだが姓もなかなか目立つものとなってしまった。整った目鼻立ちも相まってである。
昨日の夜に数分間、悩み、ふり絞った名前である。邦継は困惑した様子を見せたがその表情から不服に感じたのか女神が文句を述べた。
『自分でつけろって邦継が言ったんじゃない!』
元女神もとい早乙女ドロシーは在校生(邦継)の親族の見学という形で大学内まで入ることができた。
人を魅了する能力でもあるのか、神性によるものなのか警備員が親切に見学者の入校章を元女神に渡していたのを邦継は何とも言い難い面持ちで眺めていた。
「彼女を見せつけにきたの?」
元女神が他の学生の注目の的となっている中、湊は邦継を茶化す。
「ついてきたいっていうもんだから……あと親戚だ」
「ずいぶんと海外色のあるご親族ね」
「まぁ……いろいろとな……」
「……なんかやらしぃ……」
「なんもない」
ぴしゃりと邦継が湊に言い切る。
「そう……あ、この間の会わせたい人、今日来るみたいだから挨拶しておいた方がいいかもね」
湊が何か言いたげな表情をしまい込み、以前の邦継に会わせたい人物に話を向けた。
「結局、その人は誰なんだ?」
「ここのサークルの担当講師。いわば担任だよ」
元女神にサークルメンバーが集まっていたところからやや離れて邦継と湊が話していたのだがそちらの方向から一人の男性が邦継たちの方に近づき話に割り込む形で入ってきた。
その男性は新入生歓迎のサークル勧誘時、邦継と湊にこの学術サークルついて勧誘して来た人物だった。
「改めまして、僕はサークル副代表で3年の大場だ。よろしく吉奥君」
イケメンというほどではないが身なりが整っていいて清潔感がある。好青年といった感じの人物だった。
「えっと……」
「私が先に大場先輩と話し合っていろいろと教えてもらっていたの」
「この後、その担任の我那覇先生が顔を見せに来てくれるはずだから、軽く挨拶しておいた方がいいかもね。現金な話だけど単位とか融通してもらえたりしなかったり」
動機は不純ではあるが背に腹は、というやつで邦継も瞬時に打算的な思考へと切り替わった。
「今日は何の集まりなんですか?俺、何するか忘れちゃって」
邦継は軽く申し訳なさそうな口調で大場に尋ねた。
「まぁ、今日は新入生との顔合わせ。軽く今後のサークルスケジュールを決めて、些細なレクリエーションをやるつもりでいる」
「邦継君、今日は最後までいる感じ?」
「一応。ただこの後、バイトを入れているから二次会みたいなのには参加できないけど」
湊がやや上目遣いで尋ねてきたが率直にアルバイトがある旨を述べた邦継。
「そっか~」
満面の笑みで満足そうに応対した湊。
三人でそんなやり取りをしていると邦継の後方から甲高い男の声が聞こえた。
「吉奥!」
すぐさま声のした方向に目をやると怒っているの笑っているのかわからない表情の谷村がそこにいた。
「お、たに」
「だれだあの麗しい女性は!?」
邦継はヘッドロックのように頭を谷村に抑えられた。
「誰のことだ……」
「あのブロンドの西欧女性だよ!」
「聞いてないのかよ。遠い親戚だ。プライバシー保護のため詳細は聞いてくれるな」
「くっそ~……こんな落ち着いた根暗のような奴があんな美人を~……」
「おい……そろそろ……」
頭を押さえた腕をタップする邦継。谷村の嫌味に反応する前に力いっぱい締め上げられた頭の痛みがそれを勝った。
「やめなさい!」
今度は湊が谷村の首元を腕で押しのけ足を払った。
「うわ!?」
谷村は一瞬で背中からタイルカーペットの床に倒れこんだ。
「邦継君が痛がってるでしょ」
「……すげー。何今の……柔道かなにか?」
「まぁ……そんなものよ」
谷村は仰向けのまま頭だけを湊の顔に向けて不思議そうに尋ねた。
「おいおい二人ともここは学校なんだ。荒事はほかの活動でやってくれよ」
すぐさま大場が間に入った。
「……すごいな湊。よく見えなかったけど気が付いたら谷村が寝転んでて驚いた」
「そんなのはいいからそろそろ先生が来るはずだから二人ともしゃんとして」
大場をよそに自ら倒した谷村を湊が起こした。
「世間にはいろんな人がいるもんだな……」
谷村がどこか感慨深そうに一人でそうつぶやいた。
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