13.新しい名前
「明日、どうするか……」
ポロリとその言葉が邦継の口からこぼれた。
「明日?」
「ああ。明日、大学のサークルに顔を出さなくちゃいけないんだ」
「てっきり神社で働いているものだと……」
「何かしらの理由がない限りここみたいな零細神社の収入で食べていくのは難しい。玉串料はあっても神社の修繕や維持とかに回るってのもある。現に俺の親父も普通のサラリーマンだ。神主もやってるけどいろいろと事情が込み入ってるのさ」
「へー、神道の生活は大変なのね。それで、サークルがあるからなにか問題なの?」
「……あんたの処遇だよ。ここを離れるわけにいかないし……明日は休むか……」
「別に休む必要ないじゃない」
「今日、俺らが何してたもう忘れたのか?」
「買い物」
「そうじゃなくて、俺が付いて回っただろ、魔物に襲われるかもしれないからって」
「だから一緒に私が大学についていけばいいじゃない」
「……はぁ?」
邦継は間の抜けた声がため息交じりに出た。
「何か問題でも?」
「大ありだ。見知らぬやつを校内に連れ込むこともそうだが連れ添う理由がないだろ」
慌てて邦継は説明した。
「しかもショッピングモールで魔性のようなものを感じたのは先の魔物と関係があるかもしれない。つまり追手が近づいてきた可能性がある」
矢継ぎ早に話した邦継に元女神は反論する
「それはそうかもしれなけど長期的に考えても、ある程度、行動範囲を広げていって相手の出方を見てみたいのよ。そうすれば一緒じゃない時間が徐々に伸ばしていけるでしょう?」
それに、とつづける。
「友人なり親族なりとして東京に来たついでに見学しに来たとでもいえばいいでしょに」
「ぼろが出たらどうするんだ。それに活動範囲を広げればそれだけ追手に接触する可能性は高くなる」
元女神はにやりと不気味に笑う。
「私は元女神よ。神性が落ちているからと言ってその経験値や立ち振る舞いの質は落ちないわ。いざとなれば、神性の行使も辞さな……それは冗談よ」
神性の行使、つまるところ女神としての力を使用してでもその場を乗り切るということである。邦継はその言葉を聞いたと同時に眉間にしわを寄せて、無言で凄んだ。
「とにかく、あなたの周りの人たちには迷惑はかけないし、あなたから必要以上にはなれないように努めるから一緒に行きましょう。大学に!」
一考した邦継に続けて語り掛ける元女神
「あとショッピングモールに行って思ったんだがやっぱり名前は必要だ。『あんた』とか『元女神』とか公の場で言いにくい」
「じゃあどうするのよ?」
「自分でなにかつけてくれよ。神名は明かせないだろうし、依代とも接触できないし……一時的なもので構わない」
「……んー……田中花子とか?」
「あー……できれば身なりにあった名前の方が怪しまれないんだが……」
「どういうこと?」
「容姿が欧米よりなんだ。だから外国の人名かもしくはハーフの人とかの方が自然じゃないか?」
「そうね……そしたら……」
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