12.略式修祓(りゃくしきしゅばつ)
「……とっとと、ここを出た方がよさそうだ。いやな目線……心性を感じる。……先の魔物と似通った心性だ。使い魔かそれに準ずる何か……」
「悪いけど私はまだそこまで感知できるほど回復はしていないわ。対象の近くでないと……」
「なら俺の言葉を優先してくれ。今日のところは」
「そうね、元女神が貴殿の進言を承認しましょう~」
緊張感のない元女神の気取った言い回しに肩の力みががくんと落ちた。
「……昨日の今日で仕掛けてくるとは相手もかなり急いているみたいだ」
「何が目的なのかしらね……」
「元女神さんが一番よくわかってるんじゃないか。……ていうか依代とも話させてくれよ。一応、本人の所見を聞きたい」
「……それはできないわ」
「?」
「いいからここから離れましょう。邦継」
「ああ、一応、略式でしのぐか……」
依代について尋ねられ、どこか張りつめ、憂いる表情を見せた元女神だったが邦継の一言にその表情を驚きへと一変させた。
「あなた、そんな器用なこともできるの」
「まぁ、神社の人が家建てるときに地鎮祭やるみたいに出張してお祓いするのと似てるけどこれは対異界者用だな。まぁそんな仰々しいものでもないが」
邦継はバックから大き目な付箋のような紙とボールペンを取り出しささっと何かを書き出した。
草書体のような文字を書き終えた紙に触れ、十秒程度、何かを口ずさんだ。
「……」
女神はもの言いたげに邦継を見ていた。
「よし。これでちょっとは目くらましになるだろうよ」
「何したの?」
「俺らの心性を真似たようなものを放出する札を書いて力を込めた。いうなれば赤外線誘導ミサイルに対するフレアのようなものだ。程度の知れた使い魔程度には目くらましくらいにはなるはずだ。可能な限り、跡を追えないようにしたい。……まぁ気休めにしかならないけどな」
「あなた、いったい……」
元女神の言葉を遮るように邦継は続ける。
「じゃあ行くぞ。荷物持って。札の効力は俺らがこの机を離れた瞬間から発動するからそのつもりで」
邦継は紙を机の裏側に張り付け、元女神に目配せした。
彼らはショッピングモールを後にした。
雨親神社 社務所
「つかれたー。あんなに急ぐことないじゃない。もっと見て回りたかったわ~」
疲労感を露わにした元女神は荷物そっちのけで居間になだれ込むようにペタンと座った。
「身の上を考えてくれよ。それに俺はあんたの保護者でも何でもないんだぜ」
しゅんとし、遠くに目をやる元女神。
「……寝ている間に何されたのかしら……まだ体の節々が……なにかしらこの赤い吸引性皮下出血……」
「虫にでも刺されたんだろーよ。女神のくせに人を脅すとはな……それになにもしてねーよ」
「もう天界の存在じゃありませーん。天界から堕ちてきた堕女神でーす」
子供のように畳に寝そべり、ゴロゴロと身をよじらせながら屁理屈を述べる元女神。
あきれたように邦継が軽蔑の眼差しを向けていると明日のことについて思いが向いた
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