11.楽しい買い物
ゴールデンウィーク2日目
「ゴールデンウィークって知ってるか?」
「何ですか、突然?」
「日本の4月下旬から5月の上旬は祝日と土日が続き、休む期間がある程度とれるんだよ」
「知っているわよそんなこと。日本で活動してるんだから」
「そうか……」
「よかったじゃない。年上の美しい女性と休みに出かけることができて。今後一生……おっと」
「言えよ。その先を。いつでも警察に突き出してもこちとら一つも困らねえ」
邦継の両親に元女神について東京観光にきた友人を社務所に泊めたいという
二人は着の身着のままの生活を送ってきた元女神の身の回りの物をそろえるために地区内のモールに来ていた。
歯ブラシ程度のものは近くのドラックストアで取りそろえることができるが衣服などなどは邦継の住まいの周辺ではそろわないため買い出しに来た。
元女神は何者かに追われている身ながらも外出することに抵抗はないらしく、むしろ邦継の方が神経を使い、気休めながらも元女神にベースボールキャップを被せた。
「邦継、これあまり得意じゃないんだけど」
「自称・元女神さんとやらを守るためだ。俺だって一緒に行動したくない。誰に追われていて、なんで追われているかもわからない奴とな」
不貞腐れた邦継はしょうがなく連れてきたといわんばかりに肩を落として見せた。
衣服を何も持っていなかった元女神は邦継の服を借りており、身の丈に合わず、歩くたびに肌に触れていない服の部分がなびく。着崩したファッションにも見えなくはない様子だった。
「まずはどこからいくか……」
「エスコート役なのでしょう?どうぞこのモールを案内して?」
「どこまでものんきな奴だな……その容姿が目立つってことを忘れないでくれよ」
「わかってるって。美人はどこにいても目立ってしまうものだけれど何事も楽しまなければ損だもの」
「……とにかくそこら辺の服屋でも回って取り急ぎそろえて、さっさと帰ろう。長い無用ってやつだ。ちゃっちゃと済まそう」
「……護衛も付いたし、身の回りの物をしっかりとそろえましょう」
「……つくづく呑気だ。しかも俺持ちだし……高いものは控えてくれよ」
二人は広いショッピングモールを長々と回ることとなった。
「見て!邦継!この下着、かわいいよ」
「……さっさと選んでくれ、ランジェリーショップなんて俺には無縁だ」
「この際に女心を学んでおくのも必要よ。あなた、洞察力も神職としての能力も規格外だけどゆとりと遊び心がないわ。それに……」
元女神が一瞬の間を置き邦継に語り掛ける。
「なんだよ」
「もっとあなたのことを知りたいもの」
元女神は依り代のもともとの容姿なのか神性が見せる妖艶さなのかはわからないがその面貌には似つかわしくない幼い笑顔を邦継に向けた。
「邦継……あなた、一介の神職にしては積み込みすぎてるっていうか、若すぎるしけどそれ以上に、なんていうか……」
「?」
「……いや、今は言葉を控えておくわ。私もまだ確証がないもの」
思い煩うようなしぐさを見せた彼女は何もなかったようにショップの中に戻っていった。
「はぁ……なんなんだよいったい」
1時間程度に抑えようと考えていた邦継であったが無邪気な元女神に翻弄され数時間、ショッピングモールの中を散策し、買い物を済ませた二人はフードコートへと向かった。
「家に帰って、何か食べようぜ。外食は高くつくし、学生の俺には不要な出費は敵だ」
「私、たこ焼き食べたい!」
「何にも聞いちゃいねえ」
フードコートの席に着き、たこ焼き屋に飛んで行った元女神が二人分のたこ焼きを携えてきた。
「さぁ食べましょう!いただきます!」
同じく席に着いた元女神はまだ湯気が立ったアツアツのたこ焼きを頬張った。
「んーおいしい!ジャンクフードは人間が考えた罪の一つではあるけど、現世にいるときにはこの時が一番生きてるって感じね」
女神は二口、三口を小さな口をこれでもかと大きく開け、パクリパクリと口の中へと入れていく。
「……あんまり食べ過ぎると依代の方が太っちまうぞ」
その言葉を聞いた女神は眉間にしわを寄せた。
「高貴なレディにその発言はいただけないわよ。邦継。これも神職として、一人の男性としてうまく相手を立てるよう考えをめぐらさなければ今後の社会は辛いものになるわ。処世術ってやつを身につけなくてはいけないわ」
続けて元女神のありがたい説教が続く。
「それにこの先、就職やら何やらがあるあなたには重要な今日というイベントをありがたく受け止めておくことが他者に対して寛容になる一歩目だと思うのだけど」
「ご高説をどうも。身分も何もわからない浮浪者に社会の何たるかを説かれるとはな。あの時、素直に警察に引き渡しておくんだったぜ。今は自分が恨めしいよ」
しばしモラトリアムな時間を過ごした邦継はこの時すでに、わずかにフードコートでの違和感を感じ取っていた。
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