10.行雲流水
「じゃあ、なんだ?今言えるのは自分が『元女神』であるっていうことだけか?こっちは野良猫を拾ってるわけじゃないんだぜ?一人の婦女子を泊まらせるにはそれ相応の理由が必要だ。俺だって学生で親と一緒に住んでるんだから」
「だから今から話しますって」
ことの顛末とやらを聞いたところ元女神と名乗る彼女は素性は言えないが魔物に追われていたため逃げおおせていたが途中から記憶がなく、気が付いたらこの社務所にいるらしかった。
「仕方ないじゃないですか。記憶がないんですもの」
そう述べた元女神の目はあからさまに泳いでいた。
「……はぁ……」
「なんですか?いきなり?」
「仮に元女神とすると特殊な状況でない限り、あんたは現界、つまりはこの世にとどまるためには依代が必要だ。そうすると今のあんたの肉体は一般人の肉体だ。
「……」
「神性が著しく低いことは天界に帰っていいないということ。俺が知る限り神性持ちは帰らないと神性が保てないからな。そして帰れない理由があるのは状況からみてその蓋然性は高い。女神クラスの異界の者を受け入れてくれる一般人を伴ってこんな状況に陥っている現状から導かれる最適解は……」
「最適解?」
「あんたに出て行ってもらうことだ」
「人でなし!仮にも神職に就こうとしているものの行為ですか!?」
間髪入れずに元女神はとびかかり邦継の胸元を握り上げた。
「ぐっ……やめ……」
「私に何かあったら呪いますからね!覚悟しておいてください!いずれ裁判を開いて……」
元女神は涙ぐみながら邦継を大きく何回も揺さぶる。
「わかったから離せ……息が……」
はっとした元女神はパッとその手を離した。
「ごめんなさい。カッとなる……つい……」
「犯行動機みたいに言うな。本当に女神か?」
全快させるまで回復させたつもりはなかったがその腕力に女神の片鱗を感じ取った邦継。
「だって……」
「少なからずとも厄介ごとを抱え込んでるんだろ?女神が魔物に追われ、逃げている時点で普通じゃない。本来なら依代にある状態でも奴らはあんたらに手出しもできない」
「……」
「三境会に相談済み、あんたは理由を話せない。俺がどれだけ危険な状態に巻き込まれているかわかるだろ?」
「そんな事情を察していて、神職でありながらこの
「その悲劇に巻き込まれそうであるからしてこう言ってるんだが……」
「……そこまで知っているなら私の神性が失われればどうなるかわかっているのでしょう?」
「……」
邦継は苦虫を嚙み潰したような、まさしく自分に都合が悪いと悟った様子だった。
「……現世で神性を回復できるのはあなただけです。それに、邦継、あなた魔物を退ける力をもっているのでしょう?」
「……俺はそんなこと一言も……」
「微弱ですがあなたから魔性の残滓を感じます。……抜かりましたね?邦継」
「……俺を利用する気か?」
「……妙齢でしかもこんな美人の女性を人気のないところに連れ込み布団に寝かしつけた……はたから見ればどうみえるでしょう……」
「どうとでも……」
「ご両親がご健在で住まいを同じくしていると
「……はぁ……もう好きにしろよ」
「ありがとう。邦継。お父様とお母様には友人が泊まりに来たと通していただければ無難だと思うけどどうかしら?」
天真爛漫、天衣無縫、自由闊達。
邦継はどれとも当てはまりいずれも当てはまらないような気がした。
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