9.元女神、目覚めました

紺碧の瞳はあたりを探るように見渡す。




暖色の蛍光灯が煌々としているさまが最初に目に入った。目をゆっくりと他方へ向ける。天井の木目は日に焼け茶黒色となり、土壁はところどころへこんでいる。部屋自体は一般的な和室であり、彼女は布団に横たわっていた。




ふすまを隔てた他の部屋のどこからか物音がする。察するに炊事のようだった。




何があったかわからなかった女性は寛解したわけではなかったらしく、体がまだうまく動かない。どうにかひじともう一方の腕で上半身を起こした。




彼女はふと自身の手のひらを見つめる。




「……神性が回復してる……」




ぼそりとつぶやき、彼女は安堵した様子だったが現状をまだ把握しておらず、どこかこわばっていた。




「あの小悪魔みたいなのに追われて、それから……」




昨夜の記憶がぷつりと途中で止まり、何度も記憶の反芻をする。




「だめ……思い出せない。何があったのかしら……」




目覚めた彼女は掛け布団をめくると音のする方へと向かい、閉ざされた襖を恐る恐る開く。


開いた襖の対面にはちょうど台所があり、男性が炊事をこなしているようだった。




彼女は一考したのち素直に彼に声をかけた。




「ここはどこ?」




「うわぁ!」




邦継は咄嗟に声を上げた。




「なに!?」




それに驚いた彼女。胸元に両手をさっと添えた。




「……あんたがいきなり声をかけたから驚いたんだよ……」




邦継は首だけをこちらに向けて迷惑そうにつぶやいた。




「こっちが驚いたわよ!あなた何者!?こ……私をここに連れ込んだのはあなた?何かやましいことでも考えてるんじゃないでしょうね?」




まくし立てる彼女をよそに邦継は台所で流していた水道水を止めて、軽く払い、フックにかかったタオルで手を拭き彼女の方を向いた。




「倒れてたあんたを担いでしばらくの間、神性を回復させて、ここで休ませている間になにか飯でも作るかと考えていたんだが必要がなければ、うちの神社の中で寝ていた不審者として通報してもいいんだがな」




「へ?……倒れてた……?」




「ああ。ここはあんたが倒れてた神社の社務所だ」




邦継は彼女がとぼけているのかと勘ぐったがその整った面貌にはそぐわない驚き、惚けた様子からその考えを一蹴した。




素っ頓狂すっとんきょう。邦継はそのように感じた。




「……というかあなた、神性を回復できるの?」




「まぁね。ここ神社だし」




「いや……現世に、現代にそんな人間がいるなんて初めて聞いたわ……ありえない……」




「現に神性は回復してるだろ?実際にやったのは、……まぁほぼほぼ初めてだけど」




「……」




「それとしょうもない魔物に追われてたぞ」




「気質が神性だし、その口ぶりから察するに『この』世の者じゃないだろ。あんた?」




「……」




よく回っていた口はへの字になり邦継をじっと見つめる金髪の女性。




「神社仏閣の相談事は三境会に行きがちなんだが……そうだ。あんた、あんたと言うのも忍びないしまだこっちの名前を言ってなかった。俺は邦継。吉奥邦継だ。ここの神主の手伝いをやってる。あんたは?」










冒頭へともどる。

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