8.魔物霧散

「神性……か?」




『神性』は心性の一つであり、神々が持つ力の源となるものである。




心性はその存在の根源たる精神力や活力の源であるが神性などはそのものの存在の気質によってその性質が異なる。例を挙げると小悪魔や魔物といった心性の気質は『魔性』と呼ばれる。神性や魔性を心性と総称する。




この倒れていた女性からはその気質が神性であったことが邦継には直観でわかる能力があった。




邦継が知る限り、純粋な神性を持つ人間は現代にはほとんど存在しない。




「救急車呼ぶほど外傷は見当たらない……呼吸はあるが神性が著しく低い……」




本来であればなくならない、またはなくならないようにするべき神性がここまで低くなってしまっている状態にきな臭さを感じ取った邦継はすぐさま彼女を本殿に担ぎ込むことを決めた。




意識が判然としない女性は体が思った以上に軽く邦継の体躯ですぐさま神前たる本殿に担ぎ込んだ。




邦継は彼女を横向けにしてその背中に触れるか触れないか程度まで手のひらを近づけて何かを第三者がいれば聞こえるかどうかの声量で口ずさみはじめる。




「祓い給え……清め給え……」




彼はその祈祷をしばらく唱え続けた。




しばらく邦継が唱え続けていると再び、外から物音が聞こえた。




外に目をやると邦継たちがいる本殿の正面には悪霊・小悪魔とされる異形の物がこちらを見ているようであった。




見ているようであったというのはその異形の物にはおよそ顔というものがなく、大きさは1メートルないものの人を模しており全身が黒い瘴気のようなものに覆われており全貌がつかめなかったためである。強いて言うなら人に近いサルのように見えた。




「こいつが元凶か?」




邦継は唱えるのを中断し、本殿の外へと出る。




「……ここは三境会の管轄だ。俺が相手をしてもいいが何が目的だ?魔物風情が」




「……ギギギ……」




黒いサルはどうやら意思疎通は困難である様子だった。




境内の敷地内に迷い込んだ魔物はある程度、挙動を見守ることが多いが少なからずともかの女性には無関係には感じ取れなかった。




「ギギァ!」




邦継は様子をうかがっていた黒いサルはこちらに駆け込んできた。




間合いも策もなく、飛び込んできたそれは低俗な魔性を帯びたサルに違いはなかった。




体をひくく走りこんできたが、邦継は簡単にいなし、背中に回り込みサルの後頭部を鷲掴みにする。




「交渉の余地もない奴に情けも手心もない……」




即座に邦継は修祓を唱える。




「……異形の者、この地にあだなす魔物を清め給え……」




唱えた瞬間、邦継の手がわずかに光った。




「ギィィィグギイイイ!」




重ねて唱える。




「……掛けまくも畏き畏き申す。このものの禍事・罪・穢を清め給え……祓い給え……」




「アアアアア」




黒いサルは悶え慟哭を上げ、魔性が枯渇したのか姿形が霧散していった。




邦継はサルの気配が消えたことを確認して、ため息をついた。




「……なんなんだいったい……」






やや気だるい様子を見せた邦継は本殿に戻る。




西洋風の女性はそのまま眠っていた。まだ神性が十分に取り戻せていない様子であり引き続き、祈祷を再開する。




十数分後、邦継は概ね神性が戻っていることを確認し今後を思案した。




このままここにおいておくこともよろしくないと考え、現在祭事以外に使っていない社務所に彼女を一時的な休憩所とするため、彼女を担ぎ、連れて行った。このまま、自宅に連れ帰ると両親に何を言われるか分かったものでもないため応急的な措置だった。






午後4時ごろ。雨親神社社務所。






「……」


西洋風の女性は目を覚ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る