7.行き倒れ

ゴールデンウイーク初日、邦継はいつもとは変わらない日常ではあるが平日は働きに出ている父、邦親に代わり神社の管理を務める。




この雨親神社は第22地区の住宅街にポツンとあるさほど大きくないこの神社で邦継は掃除と朝拝を済ませる。境内とその周りはさほどゴミなどは落ちてはいない。




落葉や桜の花が落ち始めると掃除が厄介である。とっとと神事を済ませると邦継は神社の隣にある自宅に戻り、アルバイトへと赴く準備をする。




そそくさと朝食をとると朝九時から回転するカンファバーへと向かう。




邦継は昨晩と同じように自転車置き場に自転車を置き、酒屋からカンファバーへとつながる控室へと向かう。




朝八時。楠酒屋。




邦継は自然とデスクの上にあるコルクボードに目を向ける。




「見間違いか、誰かのいたずらか……」




昨夜のメッセージカードを思い出し独り言をつぶやくと更衣室へと着替えに行った。




ホールに出るとすでに絵麻が邦継に反応した。




「おはよう!邦継。もう食材の下準備は済ませてるからホールとトイレそれと、店前の掃除をよろしく~」




配送業者がその日に使用する食材を配達してくれるのだがそれらの荷物をすでに冷凍庫などの入れるべき場所にしまい、開店に間に合うように食材の下ごしらえを終えていた。




「絵麻さん、早いっすね。どんだけが早く働いてるんすか?」




「カンファバーのマスターとしてはできて当たり前の量だよ。少年……いやもう青年か」




「まぁ、俺ももう大人ですし、これからはアルバイトの質と量はこだわって働いていきますよ」




邦継は生意気に飄々と返答する。




「何を生意気な。まだまだ邦継は半人前だよ。それにお家のこともあるし、これから両立させるのは難儀すると思うぞ」




邦継と話していると絵麻は片手間で早々に仕込んだ食材を冷蔵庫へとしまい込んだ。




「さぁ、これから開店だよ。ゴールデンウィーク初日!薄情な邦継は本日午前で退勤なので、馬車馬のように働いてもらいます!」




朝九時に開店のカンファバーにはすでに店内からも窺えるほどの利用客の列が出来上がっていた。邦継は今日も一日が始まると気だるさがあるもののわずかなやる気が体を軽くした。




昼13時前。徐々に昼食を目的とした来客がピークを迎え、退店していき忙しさにひと段落した。




「邦継、そろそろあがる準備をしていいよ」




絵麻がそう邦継に声をかけた。




「ういーっす」




邦継は早々にホールを後にして帰路に就いた。








昼下がり。




午後から特に予定は入っておらず、そう急ぐ目的はなかったが自宅へと自転車を走らせた。




自宅に入る前に何の気なしに自宅の近所にある神社の方へと足を向ける。




小さな神社ではあるが父が日中、働きに出ているため神社の簡単な管理は邦継が行っている。




併せて、ゴールデンウィークということもあり、街中には学生や家族づれなどがちらほらと散見された。この時期には神社に詣でる人々も間々いる。そのため、神社全体に問題がないか軽く見ていきたかったためである。




鳥居をくぐり、本殿の方に向かった。




いつも通りの様子。五月晴れの空から燦燦と輝く太陽が神社全体を照らしていた。すがすがしい日和である。




変わらぬ日々、掃除の行き届いた境内ではあったが、邦継はどこか違和感を感じていた。




「なんだろうな……これ……」






どこか異質であり微々たる不和。




悪意はないが日常では感じえない『何か』を感じていた。




邦継は第六感とまではいかなくとも神社の息子であり、祈祷、修祓といった薫陶くんとうを受けていた。




そのためか様々な感受性、特に『心性』と呼ばれる異形や異界の物の存在の根源または生命力の源を感じ、状況によっては視認することができる体質となっていた。




ガザッ……




本殿の正面に立っていた邦継はすぐさま音が聞こえた方に体を向ける。




神社の敷地内に入った時には気が付かなかったが手水舎の裏手から音がして、何かしらの存在を感じていた。






「なんだ?帰ってきたときには何も感じなかったぞ?」




不気味に感じた邦継であったが意を決して手水舎の裏手へと向かう。




恐る恐る、その裏手を除くと体を横にした、一人の女性が倒れていた。




女性は金色に近いオレンジブラウンのショートヘアであり、その風貌から西欧の人間であると想起させた。年齢は20台半ばといったところだ。




邦継は一瞬、硬直したがすぐさま倒れている女性に声をかけた。




「おい、大丈夫か?」




このような状況は初めてで、ややあせりを感じた邦継は彼女の肩を揺さぶった。




「……ん!?」




邦継はすぐに違和感に気が付く。

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