4.カンファバー
第22地区の自宅まで帰宅するとすぐさまアルバイトために服装を改め、駅前まで自転車をこぎだす。
邦継の行先は「カンファバー」。酒屋であり昼はカフェ、夜はバーを営んでいる。
夕方、酒屋の裏手に自転車を置き、裏手の出入り口から入店した。
酒屋の店内では商品棚に並んだ酒瓶の整理をしている白髪の男性がいた。
「よう。この時期にしちゃ、あちいな」
「ういーっす。毎年こんなもんじゃないっすか?」
「若いくせして、暑いのに強いのか?」
「本殿にクーラーとかないからね。強くないとやってられないんすよ」
「そらぁ、難儀だな。こっちはいいからあっち手伝ってくれ」
白髪の男性は楠酒屋店の店長の
酒屋とカンファバーとはつながっており酒屋、控室(事務所兼更衣室)、カフェのような順でつながっている。邦継は酒屋から事務所の中にある更衣室へと向かう。更衣室のロッカーに荷物を入れ、紺色のエプロンをつける。
酒屋に増設された格好のカンファバーは19世紀後半の西洋風のバーをイメージさせるクラシックなデザインの店構えであり、控室も同じく、そのように施されている。
いつものようにホールへとつながる扉へと向かう邦継は従業員連絡用のコルクボードにメッセージカードのようなものが張られていることに気が付いた。
『クニツグへ。勤怠つけたら、店の前をホウキではいといて。エマより』
今日の日付とつい今しがたメモをつけた様子で30分前の時刻が記載されていた。
「なんだこれ?口で伝えればいいのに」
一瞥やった邦継はホールに入る。
客数は夕時ということもありまばらである。ボックス席に一組。カウンターに3名。いずれも連れは伴っていなかった。
「邦継」
「ういーっす」
「ホールに入るときはいらっしゃいませだ!何年目だ!若造」
「いらっしゃいませー」
「ハツラツさが足りないよ!」
「絵麻……さんが元気すぎるんですよ」
カウンターキッチンの中にいるのは楠絵麻。ブロンドの長い髪を束ねたワンサイドヘアの彼女はカンファバーの責任者であり実質的な経営者である。父が酒屋を営む傍ら、絵麻がカンファバーを運営している。年末や飲み会などの忙しい時には家族総出でカンファバーを回す時もある。
彼女も邦継が生まれたころからの仲で姉のような存在である。気さくなやり取りが常連の客がよく目にするところで面白がって茶々を入れる客もいる。
「まぁ、いいや。これから予約のお客さん入ってくるから夜用のメニューを差し替えておいて」
「ういーっす。店の外の掃除は先にやったほうがいいですか?」
「店の外?そんなところ掃除してどうするのよ。そんなの朝一に私がやったわよ」
「え?コルクボードにメッセージカードが刺さってたよ?」
「うそおっしゃい。それと店内では敬語!この子はいつになったら直るのかしら」
「いや本当だって」
「じゃあ持ってきなさいよ」
邦継はもと来た道を戻り、控室のコルクボードに目を向けるとそこには先ほどのメッセージカードはなかった。
「え?」
邦継はつい今しがた見たメッセージカードが消えていることが理解できず、無意識にあたりを見回した。
「……ない」
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