第8話 世界のカラクリ
(なんで……?どうして恵美は私を覚えていないの?)
疑問ばかりが募り、感情がどんどんかき乱されていった。その瞬間、辺りが一気に暗くなり、目の前に例の死神が姿を現した。
「残念ですが、ここでお試しの世界は終了となります。いかがでしたか?」
最も皮肉めいた声で死神が問いかけた。親友に忘れ去られた私は感情がぐちゃぐちゃになり、大粒の涙をこぼしながら死神へと迫った。
「私が望んでた世界と全っ然違う!やっぱり騙したんじゃない!恵美を返して!!」
怒りにまかせて当たり散らす私を死神は軽くいなした。なおも私は追撃を喰らわそうとしたが、死神がすぐさま背後に回り込み、大鎌を私の首にあてがった。さすがに私は何もすることもできず、ただ絶望を感じながら涙をこぼすしかなかった。
「では、明日香様の疑問を解消すべく、この世界のカラクリについてお教えしましょう。疑問は少ない方が交渉も進みますからね」
死神が大鎌を首の近くから離すと、私はその場で膝から崩れ落ちた。ただただ涙を流す私を横目に、死神は再び口を開いた。
「明日香様は、恵美様とどのようにして友人となったのかを覚えていますか?」
「恵美と、友達になった日。忘れるわけがない。小一の時に、持病の悪化で倒れた恵美を、私が保健室に連れていったの。そこから、よく話すようになって、遊ぶようになった」
私はその時の記憶を噛み締めながら、言葉をつむいだ。一言ひと言、口にする度に、嗚咽が続きを遮った。
「その通り。ですが、この世界の恵美様には持病がない。実を言うと、持病がなければ、恵美様は小学生に上がる前に他県に引っ越す運命にあったのですよ」
「え……、それって、つまり、」
「そう、明日香様と恵美様は幼なじみではなくなるということです。それ以降一度も出会わないのですから、恵美様が知らないのもムリないですよねぇ」
そう言うと、死神は皮肉めいた笑みを浮かべながら私を見下した。それを見た私の中に、今度は静かな怒りが湧いて出てきた。
「それを知った上で、この世界を提案してきたってこと?」
「さあ?どうでしょうねぇ?」
死神はわざとらしい、大げさな口調で言葉を返した。そのまま私の正面に来ると、大鎌を手に持ったまま床に立て、最後の問いを投げかけた。
「さて、そろそろ決断のお時間です。——明日香様、この取引に応じますか?」
感情がもみくちゃになった私だが、答えは既に決まっていた。
「……恵美が生きているのなら、それだけで十分よ」
そう答えた時、私は妙に清々しい気分になった。死神はニヤッと微笑むと、大鎌を大きく振りかぶった。
「交渉成立♪ では、明日香様の魂、頂戴いたします!」
「え、ちょ、ちょっと、待って待って待って」
まさかここで大鎌を使うとは思いもしなかった。なんとかして抵抗しようとする私を、
「大丈夫です。寿命が半分縮むだけですから♪」
と、死神が優しい口調で諭した。そして、その大鎌を一気に私の心臓めがけて振り下ろした。
「い、いやあああああ!!」
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