第7話 一方的な再会
支度を終えた私は、やや駆け足で大学へと向かった。今日、私が受ける講義は全て午後からだったので、今は恵美を探すのに専念することができた。私は大学に到着すると早速、講義棟から探し始めた。
しかし、大学内を探し回るのは容易ではなかった。ただでさえ広いキャンパスな上に、恵美がどういった時間割を組んでいるのか、検討もつかなかった。それでも私はめげずにキャンパス中を探し回り、気がつけば昼休みの時間になっていた。
さすがに足が棒になりつつあったので、私はいったん中央広場で休むことにした。自販機で水を買い、円形の椅子にゆっくりと腰掛ける。昼休みの時間ということもあり、多くの人が広場を横切ったり、立ち止まって世間話をしたりしていた。その光景を見ながら私は、恵美が本当にいるのかという不安に襲われた。疑問点がいくつかあるとはいえ、あの死神の言ったことを素直に信用して良かったのだろうかと考えてみる。しかし、いくら考えても納得のいく答えにはたどり着かなかった。
あれこれ考えていると、午後の講義の時間が近づいていることに気がついた。昼ご飯を逃した私が、空腹ともやもやする感情を抱えながら席を立とうとした時、遠くから聞きなじみのある声が聞こえてきた。その方向に目を向けると、ひとりの女性が電話をしながら広場を横切ろうとしていた。色白で穏やかな声色を持ち、木漏れ日に淡く照らされている天使のような子。
「恵美!!」
私はいても立ってもいられず、恵美のもとへと駆け寄った。恵美はちょうど電話が終わったようで、スマホをカバンに入れながらゆっくりと歩いていた。どうやら、私にはまだ気づいていなかったようだ。涙があふれそうになるのを必死にこらえながら、私はもう一度声をかけた。
「恵美!恵美だよね?私、ほんとうに……」
話すうちに目頭が熱くなるのを感じ、言葉が上手く出てこなかった。それでも、恵美がこうして生きて目の前にいるという事実がとにかく嬉しかった。
まずは親友としっかり顔を合わせようと、あふれる涙を手で拭ったとき、私は意図せず違和感を抱いた。恵美は明らかに困惑した表情で私の方を見返していたのだ。
「恵美?どうしたの?」
私が尋ねると、親友はためらいがちにゆっくり言葉を発した。
「あの、どなたで、しょうか?」
「……え?」
「たしかに私は恵美ですけど、あなたのようなお方は、すみませんが存じ上げない、です」
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた親友が発した言葉とは到底思えなかった。
「え、私だよ私!?氏家明日香!あなたの幼なじみの!」
「そう、言われましても……。あ、もうすぐ講義が始まってしまうので、失礼します。氏家さんも次の講義があるのでしたら、急いだ方が良いと思いますよ」
恵美は心配そうにそう告げると、足早に講義棟へと向かっていった。私はその背中をただ呆然と見送ることしかできなかった。
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