第4話 死神の提案
「生き返らせるのが得策じゃないって、どういうことなの?」
私は死神の言っていることの真意が分からず、戸惑うばかりだった。一刻も早く恵美に会わせてほしいという気持ちが余計に頭をかき乱していた。
「答えは簡単。生き返らせたところで、恵美様の持病が治るわけではないからですよ」
死神は人差し指を立て、子どもに教える先生のような口調で答えた。それを聞いて私はようやく死神の真意に気づいた。
「つまり、恵美を生き返らせても、またすぐにいなくなっちゃうかもしれないってこと……?」
「ご名答〜♪」
死神は愉快そうに微笑んだ。その笑みがまた不気味に感じられ、背筋に寒気が走った。私は死神から少し距離を置き、さらなる疑問をぶつけてみた。
「だったら、どうすれば良いの……?」
「先ほど明日香様が言ったことを思い出してみてください。恵美様の死因に持病が絡んでいることは明白。……ではもし、彼女にもともと持病がなかったとしたら?」
「はっ……!?」
私の頭の中に一筋の光が勢いよく差し込んできた。つい先ほど考えていたことなのに、どうして忘れていたのだろうか。高鳴る胸の鼓動を強く感じながら、私は死神の問いに答えた。
「恵美が、病気で死なずに済む」
「またもやご名答〜♪ よくできました」
死神は目を細めながら軽く拍手した。
「でも、どう願えば良いの?恵美はもうここにはいないのに……」
「そこで、私からひとつ提案があるのですよ。恵美様の持病は生まれつきのものでした。そうなれば単純な話です。『恵美様が持病を持たずに生を受ける』、こう願えば良いわけd」
「じゃあ今すぐそうして!早く!」
食い気味に私は死神へ迫った。まだ話し足りないこともたくさんある。最後に交わした約束もまだ果たせていない。さまざまな思いが心の奥から溢れ出し、涙となって流れ落ちた。
「そう慌てなさんな。これは『魂の取引』、すなわち明日香様の寿命に関わる話なんです。無闇に決断されて後からクレームを入れられても、こっちが困ります」
そう言うと死神はふっ、と不敵に微笑んだ。ふたたび私の背筋に寒気が走る。涙がもう一粒流れ落ちたところで死神は話を再開した。
「そこで、少し冷静になっていただくために、私は『体験版』をご用意しているのです」
「体験……版?」
「簡単に言うと、願いを叶えた世界をお客様自身にお試しで過ごしていただくのです。その上で、本当に取引に応じていただくか否かを決断していただきます。あ、もちろん体験版では魂はいただかないので、ご安心ください」
話終わると死神は眼鏡をかけ直し、足を組みなおした。私が思わず身構えると、死神は一呼吸おいてゆっくりと口を開いた。
「さあ、どうしますか?」
しばしの沈黙が部屋中に流れる。窓にうちつける雨音が静寂にほどよいアクセントを効かせていた。
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