第2話 死の足音

 翌朝、私のもとに恵美の訃報が届いた。深夜に容態が急変し、そのまま息を引き取ったとのことだった。その日は大学の講義を放り出して一目散に病院へと向かった。

 今にもはち切れそうな感情を抑えつけながら病院にたどり着くと、受付も済ませずに恵美のいる病室へ駆け込んだ。


「恵美!!」


 勢いよく扉を開けた私は、驚いた表情をしている主治医と目が合った。主治医が何か言いかけたのを無視し、奥の方に目を向けると、泣き崩れた夫婦と顔に白い布をかぶせられた親友の姿が目に入った。


「うわあああああ……!!」


 その瞬間、私は文字通り膝から崩れ落ち、今まで押し殺していた感情を一気に放出した。




 雨が降る中、恵美の葬儀は粛々と執り行われた。遺影の中で天使のように微笑む親友を前に私はやり場のない気持ちでいっぱいだった。


 葬儀が終わり、家に着くとそのまま自分の部屋に入り、電気もつけずに喪服のままベッドに横たわった。まもなくして、母から遅めの昼ご飯を食べるか聞かれたが、食欲もあまりないので断った。


 外から入ってくる雨音が部屋中に微かに響き渡る。数週間ぶりの雨に世間では「恵みの雨」だと揶揄されているようだが、私には皮肉にしか聞こえなかった。今日の空は濃いねずみ色の雲に覆われており、電気をつけていない自室は足下が少し見えづらい程度の暗がりとなっていた。私は何をするでもなく、薄暗い天井をただ見つめながら親友と過ごした時間に思いを馳せていた。


(……恵美に持病がなかったら、死なずに済んだのかな?)

「ほう、『持病がなければ』、ねぇ」


 私は背筋が凍り付く感覚を覚えた。今までに会ったどの人とも違う、ニヒルな声。幻聴かと思ったが、声のする方をおそるおそる向くと、すぐにそうではないことが分かった。


「あ、どうも。お邪魔しております」


 その声の主は私の椅子に腰掛け、足を組みながら細淵の眼鏡ごしに自分を見下ろしていた。喪服のような服装に、鑑識が身につけるような白い手袋。極めつけは肩にかついだ、彼の背丈ほどもある巨大な鎌。この世とはかけ離れた存在だということを私は薄々感じていた。


 私が恐怖で声を出せずにいると、彼は椅子から立ち上がり、再び口を開いた。


「まあ固まるのも無理はないでしょうね。……申し遅れました、わたくし『死神』と呼ばれている者でございます。以後お見知りおきを」

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