第二話 鋼鉄

「――エミリエ。君は噓を吐くのが下手だな」

「余計なお世話じゃ。わしの部屋に誰を匿おうとわしの勝手じゃろ」

 ふかふかのソファの上で目が覚めた。少し肌寒い。ここはどこだ。

「――少将に君を連れ戻すよう言われている。同行願おう」

「かの鋼鉄も今や英国の奴隷か。大体ワシはあのホバートとかいう男は好かん。摂理を愚弄しておる」

 窓を覗き込むと、美しい城下町と満点の星空が伺えた。

 少し空いた戸の前で、二人の男女が何やら言い合っている。

 一人は例の蒼髪の少女、もう一人は真朱色の頭髪に、紅緋色の瞳。真っ白な肌に、綺麗なロングヘアー。

 外見は完全に女だが、声は男。

「少将を悪く言うのは止めてもらおう」

「これ以上言われたくなくば去るがいい、ティムール・ジュガシヴィリ――」

「――その名を此処で言うな。貴様自身が絡繰であること、ゆめゆめ忘れるでないぞ」

 男は刺すように言葉を残すとその場を後にした。

 蒼髪の少女は少し疲れた表情で部屋の中に戻ってきた。

「アベル。起きておったか」

「あぁ、さっきの男は.....」

「コミーの亡霊じゃ。気にするでない」

 エミリエは窓からのぞく満点の星空に目を向けた。

「それよりアベル、腹は減っておらぬか」

「.....言われてみれば減ってるな」

「では城下へ赴こう。この国の料理は絶品じゃぞ」

 少女は咲くように笑った。

 あどけない笑顔の中には、聖母のような気品を感じ。

 芯の通った声の中からは、他を慈しむ心が感じられる。

 この不思議な少女は、本当に絡繰なのだろうか。

 そんな疑問を携えたまま、二人は夜の城下へ駆け出した。

 

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