第一章 蒼煙 - SJルート
第一話 絡繰
死臭が鼻を突き、目が覚める。
瓦礫に埋もれている。
身動きが取れない。
口も開かない。
「......」
粉塵の中からソイツは現れた。
浅葱色の短い髪、深緑の瞳、自信に満ちた表情の中には、堂々とした何かが立っていた。
そして彼女自身も、その場に堂々と立っていた。
「人間、生きておるか」
残った力を振り絞り、少し唸る。
精一杯の返事だった。
「そうか。助けた甲斐があったわ」
ただただ項垂れることしかできない。
返事を返そうにも口が開かない。
「.....? まさか喉が搔き切れたのか」
そうして少女は瓦礫に埋もれた男の顎を持ち上げ、男の喉が搔き切れていないか確かめた。
「なんじゃ、無事ではないか」
「ぅ.........」
「あぁ、なるほど......」
そう言うと、蒼髪の少女は何か言い始めた。
「死んでなお手を煩わせる気か?」
何も起きない。
「そうか、貴様は恩を仇で返そうと言う訳だな。ならば末代まで――」
口が開いた。
「口が.....」
「随分と声が枯れておるな」
目を下に向け、少女と合わせる。
「......... あんた誰だ」
少女は目を丸くして答えた。
「誰だじゃと?」
状況が全く読めない。目でそう訴えた。
「記憶が無いのか......」
ただ、見つめた。それ以上に出来る事などなかった。
「そうか....... わしの番か..........」
彼女は何故か悲しそうだった。それが何故かなど、当然知る由も無い。
「エミリエ・ルフェーブ。史上最高傑作の絡繰じゃ」
優しい目をした少女は、男にそう告げた。
「俺が誰だか知らないか?.........」
エミリエはひどく驚いた顔で、息を呑んだ。そうして口ずさむ。
「貴様は....... 貴様は.......」
目が泳いでいる。多分、この絡繰はこの後、優しい噓を吐くのだろう。残酷で優しい噓を。
「..........貴様は私の恋人じゃ」
少し意外な嘘だった。
半分だけ噓を吐いた。そんな感じの出来損ないの嘘。
そんな感情。
そうして気絶してみせた。
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