第二十四話 白金箱

 危機。

「武器あるかッ....」

「万能台を展開しないことには――」

 絡繰は急いで銅箱を取り出した。

「――待て待て、攻撃する気は無い」

「?.......」

 事情聴取後、本当に敵意が無いのだと分かった。

 シルヴァはちょっと怒ってる。

「で、なんで襲ってきた訳?」

「だから何も覚えてねぇんだって」

 奇妙なことに、俺らを襲ったときの記憶や自分が旧ドイツ国街を訪れたなんて記憶は無いんだそう。本人曰く、記憶のほとんどが霞んで見えているというのが現状なのだとか。

 意識が戻り始めたのは、俺らが呪傷者とすれ違ったあたりらしく、それ以前の事に関してはほとんど思い出せないのだそう。

「確かに覚えている事もあるが、お前たちに安易に教えられる内容じゃ無い」

「.....そうか。まぁ無理に聞いたりはしねぇよ。それはそうとして、意識あったなら自分の足で歩けよ!」

「いやいや、武器取り出そうとしたお前らがそれ言う?」

 絡繰と一番の懸念点について小声で話し合う。

「.....てか、俺ら此奴の製作者に会って大丈夫なのか?」

「少なくともお前は大丈夫だろう。知り合いなんだろ?」

 そう言えばそんな設定ありましたね。

「お前らガランドに向かうんだろ? 俺も着いて行ってやる」

「お前を送り届けるためにガランドに行くんだよバカゴリラ」

「そのゴリラってのやめろ.... 無性に腹が立つ」

 一々由来説明されても面倒だ。パパッとな。

「じゃあジェイだ。異論は認めん」

「ほん......」

 お前毎回その反応なんだな。バリエーションの無いゴリラだこと。


 止まったままペチャクチャと雑談している訳にもいかないので、歩きながら話すことにした。

「フランク・ヴァーゲンザイルに会った!?」

「そんなに驚く事か?」

「そのゴリラの反応が普通の反応だ」

 それにしても表情豊かな絡繰だな。

「そもそもあれがフランク・ヴァーゲンザイルかなんて分からない訳でだな...」

「いいや、ソレは絶対フランクの野郎だ」

 何でそんな身近な感じで話進めんだ。

「フランクの野郎って... 会った事ねぇだろ」

「何言ってんだ。つい最近会ったばっかだ」

 会っただと。誰にだ。まさか、フランク・ヴァーゲンザイルにか。

「やはり生きていたのか.... それで?....」

「嬢ちゃんも興味ありってか.... 良いだろう――」


 そこからは長かった。

 十九世紀を救ったのはフランクだとか、そのフランクを救ったのはこのジェイ様だとか。引っ切り無しに出てくる武勇伝の信憑性は定かでは無い。

 そもそも此奴の製作者、十九世紀を生きてないだろ。

「元人間の俺だが、今の力は戦車級だ」

「おい待て、お前人間だったのか」

「当たり前だ」

「今の歳は」

「百二十位だ」

「それを当たり前とは言わん....」

 半分恐れながら、半分呆れながら、絡繰に視線を送る。

 すると足を掛けられた。

 辛うじて転ばずに済んだ。

「乙女に年齢を聞くな」

「まだ何も言ってねぇけどな....」


 しばらく歩いた。

「ようし、もうすぐ長壁街だ」

「長壁街?」

「ガランドを囲ってる長壁。その麓には街があるのさ」

「そうかじゃあそこで休憩だな」

 すると突然、ジェイは足を止めた。

「こっから俺は歩かん。そこの嬢ちゃんもだ」

「なんだ急に。駄々か?」

「長壁街で絡繰が動くとヤベェのが襲ってくんだよ......」

「ヤベェのって何だ....」

 妙に言い渋っている。

「......動かなきゃ関係ねぇ」

「言って問題ないぞゴリラ。ソイツも心淵技師の端くれだ」

「そうか......」

 気を遣って言い渋ったのか。

「.....空絡。通称カラカラこと空絡繰。名前の通り心が空っぽの絡繰だ」

「心が空.....」

「そう。で、そいつは絡繰を襲う。お前がどの位戦争に詳しいか知らんが、近年の軍事用機械人形の大半がこの空絡繰だ」

「........」

 軍事用。そんな絡繰が何故街中に。

「まさか長壁街は――」

「――軍事演習場。そこに放たれてる空絡は、動いてる心核を獲りに来る」

「つまり電源オフの状態の二人を抱えて長壁街を突破しろと?」

「まぁ大体そんな所だ」

 無理があるだろう。一人は乙女でも、もう一人がゴリラだ。流石に担げんぞ。

「まぁ担ぐのが無理なのは当然俺も分かってる。そこでコレだ」

 ジェイは内ポケットから何かを取り出した。

「お前それッ.....」

「プラチナボックス。死ぬ程便利な巨大倉庫だ」

 万能台の銅箱に、巨大倉庫の白金箱。

 俺の銀箱は、一体何なんだ。

「コレ、Abelってお前さんの事だろ? 駅で嬢ちゃんの銅箱見た時から、ずっと言いたい事があったんだ...」

 ジェイが目の前まで迫って来た。真剣な眼差しでこちらを見つめている。

 死ぬのか、俺。

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