第二十三話 姫物語

 流石に日が暮れた。これ程の大移動が二日で済むのだから、その辺りは大目に見るべきなのかもしれない。

 車内に明かりは備えられておらず、月明かりだけが物探しのお供となっている。

 差し込む光に照らされる絡繰を見ていると、極東の御伽噺を思い出す。

「かぐや姫って知ってるか」

「.....」

 無言。

 感傷にでも浸ってんのか。

「お前には似ても似つかないお姫様が、月に帰るまでのお話だ」

「あぁ。私には似てない」

 ぼんやりと星を眺める浅葱色の瞳。何気ない返答の様に思えたソレ。

 俺は何故かそれらから、強い信念の様なものを感じさせられた。

「かぐや姫は..... 何もしなかった......」

「確かに...... そうかもな」

 シンデレラも白雪姫も、何もしてない。そういう見方が出来てしまう。

 私は、そうならないと言いたかったのかもしれない。

「貴様は何故、生きている」

「......何となく。生きてる」

「つまり、何の目的も無いと....」

「....いや、何となく生きる事が、目的だ」

 絡繰は黙り込んでしまった。

 絡繰にとって、何となく生きるというのは、怠惰なのだろう。いや、絡繰に限らず、人間だって、怠惰だと思うのかもしれない。

「何となく生きるために努力する.... それを俺は――」

「――私は良いと、そう思う。羨ましい程に、良い夢だ」

「シルヴァ......」

 達観的で、無感情な機械人形。

 無愛想で、無関心な絡繰。

 少しだけ素直で、少しだけ可愛らしい、シルヴァ。

 全員が一人で、一人が全員。

 この絡繰は俺よりよっぽど人間をしている。そう思うと、呪傷者の件も、ただの演技だったんじゃないかと、そう思えてくる。

 こんな風に、静かに涙を流せるのだから。


 早朝、列車はビルンに到着した。座りっぱなしで凝ってしまった体を伸ばしながら、ビルンに足を踏み入れる。

「よぉ先日は世話になったな」

「なッ.....」

 ジェイが立っていた。

 襲い掛かってきた時と風貌が全く違う。

「お、おい動いてるぞ」

「あ、あぁ、動いてるな」

 灰茶色というか、焦茶色というか。いや、色なんてどうでもいい。なんで髪が生えてんだ。

 後、ご自慢のお髭は何処へ。

 いやいや、そんな事はもっとどうでも良い。

 早く此奴を縛らねば。

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