第二十二話 詐技師

 ビーフオアフィッシュマンが消えてから数刻。絡繰が目を覚ました。

「.....」

 絡繰は呆れ気味に、机に乗った皿を指差した。車内販売に目が眩んだのか、とでも言いたげな目でこちらを見つめている。

 そんな絡繰に、俺はドヤ顔でこう言った。

「タダだ...」

 絡繰は右手を目元に近づけながら、溜息を吐いた。右手が目元を覆うと、今度は口が動き始める。

「タダより高いモノは無い....」

 そう言われると少し不安にはなる。そうして当時の状況について語らされた。これはもはや事情聴取のソレだ。

「お前ソレ多分――」

 フランク・ヴァーゲンザイル。旧ドイツ国軍士気作戦部所属、対外革命工作員。

 一九三六年。旧ドイツ国国家元首のその身に宿された業を剥ぎ盗もうとするも失敗。当時側近を勤めていた元髑髏部隊所属のSS呪師によって拘束され、永久収監。後、ドイツ国崩壊の際に脱獄、現在までその行方は分かっていないのだそう。

「一九三六年って.... 流石に死んでんだろ.....」

「あぁ。だが、ビーフオアフィッシュでモノを押し付ける手口は、完全にヴァーゲンザイルのソレだ」

「押し付け?」

「契約だよ。モノを押し付けて、勝手に契約を取り付ける。お前多分、何か持ってかれてるぞ」

 何か持ってかれていると。一文無しの俺から、一体何を持っていく。

 心当たりを手当り次第に当たっていく。

「銀の箱は?」

「ちゃんとあるぞ。ほら」

「......じゃあ一体何を持っていったんだ」

 開き直って一個切り込んでみる。

「...普通の車内サービスって説は――」

「――無い」

 即答。だが、本当に何も盗まれていない。

「牛肉のステーキと同等レベルの見えない代償....」

「多分考えても分かんねぇよ.....」

 絡繰は、両手を机の端に乗せると、身を乗り出して言った。

「どちらにせよ、貴様には用心が足らん。足らな過ぎる。用心を覚えろ、阿呆技師」

「誰が阿呆技師だ、この礼儀知らず人形」

 締まりがついた所で、両者は椅子に着いた。そのままガタゴト揺られてく。

 ビルンまでは、まだしばらく掛かりそうだ。

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