第二十一話 ビーフオアフィッシュ

 機関車は嫌いじゃない。ガタゴト揺られながら、次へ次へと移り変わる景色を楽しめる。見飽きないというのは、旅路的にかなり助かるのだ。

 問題は車内。開発から二百年以上経っているというのに、この騒音は何だ。いやいや、そんな事を気にしてはいけないか。では、この黒煙はどうしてくれよう。未だに石炭を放り込むだけで済まそうとするのは如何なものか。

 そうして車内に視線を戻す。向かいに座るは銀髪ショートの機械人形。万能台から取り出したのか、衣装が変わっている。あの衣装だ。お出掛け衣装。

 きちっと着こなされた白いブラウス。取って付けたような金の首飾り。瞳と同色のフレアスカートに、軍人御用達、茶のコンバットブーツ。銀髪は勿論、結ばれていない。

 ここまで一致しているのに、何故、ベーコンが嫌いなのだろうか。何故、ショートなのだろうか。

「うるさいなぁ.....」

 絡繰が寝言を言っている。

 そもそも寝る事自体が、意味不明だというのに。ここまでの変態設定を組み込んだ老耄には、本当に頭が上がる。絶対に下げたくはない。いやむしろ、頭が引けると言った方が良いだろうか。ぶっちゃけかなり引いている。

 すると背後から、カタカタガラガラと音を立てながら何かが近付いて来る。

 車内販売だろうか。生憎、持ち合わせは移動代で飛んでいる。通過してくれたまえ。

 車内販売を横目が捉えた。白ワイシャツに黒ベスト。黒ネクタイに襟元ボタンも黒。なのに瞳と頭髪は露草色。おまけにイケメンと来た。

 此奴なんでこんな所で車内販売なんかしてんだ。

 すると次の瞬間、車内販売が真横で停車。何の用だ。

「ビーフオアフィッシュ?」

「はい?」

 何処ぞの高級列車と勘違いしてんだ此奴。

「ビーフオアフィッシュ?」

「え、これって無料な――」

「――ビーフオアフィッシュ?」

 あ、やべぇ。此奴会話成立しないわ。

 呆れ気味にちょっとだけ惹かれたソレを頼んでみる。

「......ビーフ」

「オーケービーフ♪」

 そう言うと乗務員は、右膝を少し上げ、足先で床を軽く叩いた。すると次の瞬間、絡繰と俺の間に机が生えた。体を屈め、机の付け根を見る。

 机は床から生えていた。

「おい今のどうやって.....」

 居ない。アイツ何処行った。

 机の上には、大きな牛肉のステーキが一つだけ置かれていた。肉に付け合わせの様なものは付いていない。どうやら真のビーフオアフィッシュらしい。

「ビーフオアフィッシュ?」

「アイツ乗客全員に聞いて回ってんのか....」

 そうして適当に置かれたナイフとフォークを手に取り肉を捌く。肉汁溢れるソレを、口に運んだ。

「うま....」

 本当に何だったんだ。

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