第二十話 呪神教区
到着。
機関車が来るまでの間、駅近くの石段で少しだけ休憩する事にした。
一段落ついた所で、静寂を突いてみる。
「なぁ...」
「何だ、ようやく何か話す気になったか」
「あぁ。ずっと黙ってて悪かったな」
素直に謝ったせいか、絡繰は妙にバツが悪そうだ。コレが見れただけで、素直になった価値はあったかもしれない。
「にしてもお前、呪傷者を見るのはアレが初めてだったのか?...」
「あぁ。あれは一体..... 何なんだ........」
絡繰は少しだけ溜息を吐くと、目を逸らしながら小声で言った。
「器」
「器.... まさか奴等が器になるのかッ.....」
「それは違う」
まるでそこまでは酷くないと言わんばかりの切り返しだった。あんな姿にされている時点で、相当だというのに。
「奴等は恵みを得るために代償を支払ったんだ」
「代償....」
「人間を捨てる。それが奴等が支払った代償だ。そして代償は恵みをもたらす」
「それが器.....」
あの様な姿にされるのだと知っていながら、それでも尚、器を得ようとする。
恵みと器。
「それ程の代償を支払ってまで手に入れたい器って――」
「――呪核。」
今、何て言った。ジュカクって言ったか。言ってないよな。
「冗談も大概に――」
「――冗談であれば..... 良かったのだがな.....」
呪核。
覚えている。知っている。
あの光景を。
「......」
呪術行使下における最上位の器。あらゆる代償の器と成り得る呪核の、最も有名な使用例は爆弾。
呪式核弾頭。
世界で初めて呪式核弾頭が投下されたのは、大日本帝国領東列島。
その威力は凄まじく、数十年経った今でも、爆心地には近づけない。
初撃が生んだ犠牲を糧とし、更に爆破が広がる悪魔の兵器。その器を担っていたのが呪核なのだ。
「呪式核弾頭の呪核だよな?......」
「あぁ、有名な話だな。その呪核だ」
「たった一人の人間がッ.... 呪核が生み出せるのかッ.....」
「違う..... たった一人の犠牲で、呪核が生み出せてたまるか」
どういう事だ。
「まさか器が出来るってのはってのはッ....」
「方便だ。自分一人の犠牲で呪核を生み出せるって考えたら、志願者も増えるだろう?」
「鬼畜だ.....」
「戦争とは得てして鬼畜だ」
呪神教区が存在するリューベックから歩いてきたという事は、もしかしたら彼も。いや彼女かもしれないな。
大きく吸って、吐き出す。
「.....やはり宗教は嫌いだ」
「宗教は関係無い。いや、無いといえば嘘になるな。だが、恨むなら争いを恨め」
「人を恨むなとでも言いたいのか」
「あぁ。一生仲良く手でも繋いでいろ。そうすれば殴り合いすら起きんからな」
「教訓じみた説教は嫌いだ..........」
再び静寂が辺りを包み込んだ。
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