第十五話 大猩々

 今回は気絶しなかった。良くも悪くも意識がある。吐き気も無い。

「して、心淵技師。此処は何処だ」

「?」

 どういう事だ。俺を謎の辺境に連れ去ったのは、間違い無くシルヴァだった筈。相変わらず記憶が無いというのは困り物だ。老耄の遺言集と技師の記憶。こんな無意味な記憶共をどの様に使えと。

 次の瞬間、謎の大男が背後から殴り掛かってきた。間一髪で回避を決め込む。

 大男には見覚えがあった。

「ジェイじゃねぇか!!! いきなり何すんだ!!!」

「こちらJ1K。目標を発見しました」

 通信管補具か。通信先は恐らく、例の日本人技師。それにしても何用だ。

 いや待て。通信間補具。なんだそれは。急に頭に浮かんできたぞ。

 今は一旦、どうでもいいな。

「おいゴリラ!!!」

「誰がゴリ――」

 パコーン。

 折れた柱でぶん殴ってやった。

 木造建築の残骸。非常に役に立つ代物だ。燃やすも良し、殴るも良し。便利な道具だ。

「乱暴だな」

「握力だけで成人男性の左手を骨折させる様な女が何を....」

「貴様は何の話をしている」

「ッ..... 何でもねぇ」

 状況はまだ理解出来そうにない。ただ正直、状況がかなり宜しくないという事だけがよく分かる。シルヴァがショートになってたり、ゴリラが急に襲いかかってきたり。単なるタイムスリップにしては芸が細すぎる。

 シルヴァは通信管補具を鹵獲した。

「コレは何だ」

「通信管補具だ。言うなれば呪いの無線だな。って、なんで知ってんだ俺.....」

「ほう、これが無線か。では、コレを使うと超能力が得られるのか?」

「お前無線を何だと思ってんだ」

「魔法的なソレだろう?」

 呆れ顔をお送りした。

 絡繰の癖して、通信管補具も知らないのか。中央動力管の交換とかやってるだろうに。まさか、全部技師頼みなのか。もしそうなら、今から此奴の事はシルヴァ御嬢様と呼ぶことにする。

 いや待て待て。まただ。中央動力管ってなんだよ。なんか気持ち悪いぞ、この感覚。何なんだ。

「どうした?」

「............いや、なんでもない。それ、貸してくれ」

 気味の悪い感覚に苛まれるも、見て見ぬふりをした。

 通信間補具をシルヴァから受け取り、耳に当ててみる。

 発声。

「あーもしもし?...」

「!? だ、誰だ! 僕の助手君は――」

「助手君はスヤスヤ御寝んね中だ」

 此奴がゴリラを作ったっていう日本人技師か。女だったとは。

「君が殺ったのかッ!!.....」

 殺ってねぇよ。寝てるって言ってんだろ。

「襲ってきたのはお前ん所のゴリラだ。そこん所、間違えんな」

「助手一が人を!?..... というか、その喋り方アベル君か?」

 マジか。こいつマジでアベルって名前だったのかよ。

「......」

「アベル君?....」

 アベル君、ゴリラの製作者と知り合いだったとは。

 そういうのは先言っといて欲しいんだわ。

「.......おう、久しぶり。俺だ俺」

「何だいその詐欺師みたいな喋り方は。心淵技師にあやかって、“詐技師”だとでも言いたいのかい?」

 本当に何なんだソレ。

 流行ってんのか。

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