第二章 伽藍堂

第十四話 機械人形

 死臭が鼻を突く。

 不快な目覚め、程良い吐き気。このまま寝れば楽になれる。そんな確信。確かに存在していた記憶が、立ち上がるための力をくれた。静寂が知らす現状を、俺は見ずとも知っている。

「シルヴァ....」

 粉塵を裂くは機械人形。

 芯の通った立姿に、気の抜けた面、透き通る様な白い肌に、浅葱色の瞳。美しく纏め上げられた銀髪、じゃない。髪が短いぞ。

「問うは一つ。伏するか人間」

 口が開かない。

 そうして無視を決め込んでしまった。シルヴァさん、何やら御立腹の御様子。早足で近付いて来るや否や、下から顔を覗かせてきた。

 そう言えば、この後何かされた様な。

「口呪とは.... 陰湿な.....」

 コウジュとは、この事だったのか。

 次の瞬間、シルヴァの唇が俺の唇に触れた。そして数瞬。ほんの数瞬後。口が開いた。

「お、お前!! な、何をする!?」

「お前とは何だ。恩人だ、敬え」

「ッ....... よ、よし、一旦忘れよう。何も無かった、何も起きなかった。よし....」

 そうして力を振り絞り、天井・俺・床からなるサンドウィッチ同盟から抜け出した。

 仁王立ち。堂々の帰還。

「お前.... 本当に人間か?......」

 ピンと人差し指を立て、シルヴァの心を指差した。

「俺はお前じゃない。アベルだ」

「聞いてな――」

「――聞け」

 改めて、本当に無愛想な絡繰だ。

 コレが手繋ぎ、御料理上手。挙句は寝巻きで一回転。分かんねぇな、世界って。

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