第十三話 銀夢

 不思議な一日だった。絡繰に救われ、絡繰と過ごし、絡繰と言い合い、絡繰と眠る。今なら俺は、御伽噺の語り手にすら成れる。本来眠るはずの無い絡繰を横目に、違和感に溢れる温かい小屋の中で、俺は天井を見つめている。

 俺は、何者で、何なのだ。

「心淵技師.....」

 ただ一つ、何者でもない俺に与えられた希少な役職。記憶が無くなった今でも、老耄の遺言集と心の造り方だけは簡単に思い出せる。

 そして一つ確かな事。

 この世界は、おかしい。そんな事実と、小屋の天井と、静かに向き合ってみる。

 そうして、瞬きを一回。また一回と、この世界は確かに在るのだと、祈る様に繰り返す。

「アベル・ルフェーブ。昼間から居眠りとは、大層な事だな」

「老耄....」

 崩れた筈の家。死んだ筈の老耄。椅子に座ったまま、その身を製図台に投げ出す男、アベル・ルフェーブ。

 右手が握るは銀の箱。あの世界は、確かに存在していた。絶対に存在していた。絶対に。

 募り募る非論理的確信。それでも今は、ソレらに縋りたい。

 そうしてふと、製図台に目を落とす。そこにはシルヴァが描かれていた。

「シルヴァ.....」

「貴様その箱を何処でッ!!!」

 次の瞬間、天井が降ってきた。絶望的な状況。二度と見る筈の無い景色を、俺は確かに憶えている。俺はきっと、此処で死なない。

「口呪ッ!!!」

 老耄が俺に呪い掛けてきた。国を救わねばならない、そうとでも言いたげな老耄の目は、さながら御国を救う英雄様のソレ。

 巨悪を見る目、そんな感情。

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