第十二話 絡繰心

 夜飯はステーキとなった。相変わらず味付けは塩と胡椒。調理の腕に文句は無いのだが、如何せん味付けが単調で玉に瑕だ。

 そんな事を思っていた時、事件は起きた。あの絡繰、さて着替えようと、何の躊躇も無く脱ぎ出すのだ。状況が状況なら罪人にされかねん。自らが人間の形をしているのだと忘れられてくれては、非常に困る。

 そうして目を逸らしていると、悪夢は自然と過ぎ去った。さぁ見ろどうだ、と言わんばかりの一回転。随分と寝巻きらしい寝巻きだ。ワンピースに似た何か、それ以上の事は分からない。表情は、相も変わらず無し。無表情。

 なのにどうだろう、これ程までに褒めて欲しそうな顔に見えてしまう。要因は言わずもがな、お分かりだろう。

 目だ。目が訴えかけてくるのだ。いや、命令してくると言った方が正しい様な気がする。輝いているというか何と言うか。

「何だ....」

「感想は無いのか」

 声のトーン怖。

 それは所謂、圧、と言うやつだな。圧に屈しては最後とよく聞くが、屈するべきでは無いのだろうか。

 そうして仕様もない葛藤と戦い続ける。

「言う事は決まっているな?」

 え、何ですか。怖いんですけど。離れてください。

 圧が近付いてきた。無論、睨んで来ているとか、そう言う訳では無い。無表情、真顔。何も無いのに、確かに存在している何か。それがきっと、圧なのだろう。

「よ、良くお似合いで御座いま――」

 舌打ち。

「非常にお美し――」

 睨み。

 無表情、真顔。違う、これは絶対に睨まれている。どうしてこうも怖いのか。勘弁して頂きたい。

「か、可愛いとか?....」

 微笑んだ。どうやら正解を引き当てたらしい。しかし、素直に微笑んでくれてはいない。そこには確かに、圧が存在していた。

 最初からそう言えと、言いたいのだろう。どちらかと言えば美しい系な彼女に、一発目で可愛いと言える訳が無い。無理難題と言うヤツだ。

 いや、本人の容姿がそうでないからこそ、そう言われる事に嬉しさを感じるのかもしれない。

 それにしても、圧を使って言わせた言葉で、満足するのだろうか。いや、満足してないから圧をかけてくるのか。

「でもやっぱり美しい系なんだよなぁ.....」

「美ッ!?....」

 何だ。

 何が起きたのかと思い、近付くと、絡繰はすっと顔を背けた。

「シルヴァ?」

 口角が上がっていたような気がした。でも待て。さっきも同じ事言ったよな。非常にお美しいお姿でって。まぁ阻まれたけど。

 やはり此奴が喜ぶ仕組みが分からん。絡繰心というか乙女心というか、本当によく分からん。

 難儀だ。

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