第十一話 追加機能
何だかんだで、家に着いた。
口角の件だが、機械人形にその様な機能を搭載させる様な、モノ好きな技師には心当たりがあった。問題はその技師が、既にこの世にいないという所にある。そう、あの人形の製作者は恐らく老い耄れなのだ。
シルヴァが小屋の扉に手を掛けると同時に、ふとある事に気が付いた。ある事、それは朝食以来、何も口にしていないという事だ。
ジェイの拳骨が、昼食の時間にある筈だった意識を飛ばしてくれたおかげだ。
朝飯であの美味さなら、夜飯はさぞ美味いのだろう。期待せずにはいられない。
「シルヴァ、申し訳無いが夜飯を頼めるか?」
「完全に忘れていた。今すぐ作ろう」
食材調達から調理まで。自分が食べる訳でも無いのに、見事な迄にこなしてくれる。
いや、ちょっと待てよ。この辺境の地の何処に、パンやらベーコンやらがあったんだ。まさか、育てているのか。いやいやまさか。
小屋に入るとシルヴァは、繋いだ手を引いてそのまま寝床に俺を投げた。ちょんと座らされた。目を丸くしながら、化粧台に座るシルヴァを見つめるアベル。
そして次の瞬間、化粧台が一瞬にして調理台に変身した。
「へ!変身した!!!」
「な、何だ...... お前技師の癖に万能台を知らんのか.....」
「技師だった頃の記憶はもうほとんど無い....」
何気なく切り出してみた。シルヴァは妙に俺が技師である事に執着するからな。今生かされている理由が、技師という職業に依存するものならば、現状は非常に宜しくない。最悪殺されるとか、それ以上もあるかもしれん。
静かに息を飲んだ。
「....」
静寂の訪れ。ヤバいかもしれん。
逃げる算段と、調子を整えた。見事な迄に追い込まれてしまっている。
「――献立が浮かばん」
「こん?.....」
被害妄想とか、早とちりとか、そんな所。もはや土下座とかしてしまった方が良いのかもしれない。
待て待てそう言えば。
「そういや..... 食材ってどっから湧いてきてんだ?.....」
「湧いてなど来るものか。無論貯えているのだ」
貯えている。何処にだ。
少し考え込んでみた。そうして、ふと得た気付きを確信に変えるべく、行動を起こした、
行動。指差し行動。人差し指を静かに万能台に向け、シルヴァと視線を合わせてみる。するとシルヴァは、そらそうと言わんばかりの表情と頷きを返してくれた。そして続ける。
「なんで貯えなんて」
「食わねば死ぬ。道理だろう」
聞き覚えがあった。あの老耄の言葉だ。
全てが見えた。この絡繰は食事を動力源としているのだ。随分と物好きな改良を施している。
それにしても、道理から外れた者に、道理を埋め込むとは。やはりあの老耄は変態だ。
「そうだ、肉にしよう」
「急だな....」
「絡繰らしさと言うやつだ。そのうち可愛く思えて来るぞ」
そう言うと彼女は、背を向けたまま見せ付ける様に、両手で作ったハートマークを頭の上に乗せた。
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