第六話 大猩々
石畳の小路に座り込む二人。一方は男の顔に、掌を添えていた。
「店の前でイチャつくなぁ」
工房内からゴリラが出てきた。見兼ねた店主が、というヤツだ。
工房から出て来たということは、此奴が駄作の作者なのか。それにしても、どの様に過ごしていれば、工房勤めの心淵技師が、これ程までに大きなゴリラとなるのだ。
そう問うてみたくなった。
褐色肌、白鬚、スキンヘッド。半袖白シャツに藍色半ズボン。締めに藍色ピチピチエプロン。背丈は俺の約一・五倍。人間離れし過ぎている。
やはり此奴は、ゴリラだ。俺の目に狂いはない。
扉前の小階段を下ると、ゴリラは目の前で止まった。謎の空気で包まれる空間を、気にもせず切り出したのは絡繰だった。
「紹介しよう、ゴリラだ」
「誰がゴリラだ」
そこそこの背丈を誇る絡繰が、真上から垂直に拳骨を受けている。ゴリラでなくとも、化け物ではあるだろう。そんな確信と戯れる。
「にしても、嬢に連れとは珍しいな。それも人間の男ときた...... 誘拐か?」
「誘拐だ」
食い気味に言ってやった。実際問題、此処が何処なのか、俺自身分かっていないのだ。誘拐と言って差し支えないだろう。
「誘拐とは人聞きの悪い。怪我人の救護及びその治療と、そう言ってくれ」
「怪我人を誘拐するな」
静観中のゴリラから、お察しします的な視線を送られた。ゴリラに同情されるとは、誠に遺憾だ。
「で、何しに来た」
「技師を連れてきた」
静寂。
ゴリラは目を丸くすると、俺を観察し始めた。
「此奴か?」
「此奴だ」
何のやり取りかは分からんが、多分馬鹿にされている。そんな確信が、腹を立てさせた。
そうして口に出さなくて良い事が口から溢れ落ち始めた。
「此奴で悪かったなァ......」
「まだ何も言ってないぞ」
それは今から何か言うつもりだったと言う事か。俺が無能に見えるだとか、その様な類の事を。
そう考えた瞬間、怒りは言葉になっていた。
「言ってる様なもんだゴリラ!!」
「誰がゴリラだァ!」
拳骨着弾。人間には重い一撃だった様で、彼の意識は飛んでしまった。
だが先程、これを受けた絡繰は何の反応も示さなかった。
やはり彼女は人間ではないのだ。
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