第四話 駄作な心

 歯型付きサンドウィッチとの格闘に、長く時間は掛けなかった。時間を掛ければ掛ける程、美味しい思いするのが彼女なのだと、齧り始めに気付いてしまったからだ。

「ご馳走様でした....」

 サンドウィッチが消えるまで、彼女の顔に視線は送らなかった。食べ終わるまでに、彼女の顔に表れてしまうかもしれない情に出会いたくなかったという表現の方が正しいのかもしれない。

 見た所で、彼女の新しい表情など見つかる筈もないのに。それなのに、何故か視線は送れなかった。一体何故なのだろう。

 意地の悪い自分自身との格闘はこの先も長く続きそうだ。

「では、行こう」

「何処に....」

 規律重視でお堅い性格。第一印象という奴は、いつだって役立たずだ。何処のお堅い造物が、これ程優しく手を引けよう。

「街だ」

 強いのは口調だけ。これだけ丁寧に手を握られれば、嫌でも分かるものがある。

 これ程の駄作を造り上げた心淵技師に、俺は無性に会いたくなっていた。

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