第三話 造物
無意味な言い争い末に、俺は朝食を得た。食事の片手間に、内見といこう。
一室構成の小屋。無理に人間を意識した様な内装。放る様に置かれた木製デスク、化粧台に屑篭。木枠の窓に、透明ガラス。水に関する設備が無い所を見ると、人間の住居として成立していないのだと嫌でもわかる。玩具の家とは、言い得て妙。絡繰と人間、これ程までに差があるか。
機械人形が帰ってきた。小言を挟みたそうな顔をしている。
「寝具の上で食事を取るな。机があるだろう」
「へいへい。失敬失敬」
所で朝食。内装とは打って変わって、温かみのあるお手製サンドイッチ。トマトにベーコンとレタス、塩に胡椒まで。今どき調味料とはまた豪勢な。
いや豪勢と言う程でもないか。
「どうした技師よ。美味くないか?」
「いやいやまさか。死ぬ程美味い」
絡繰の口角が少し上がった様に見えた。気の所為だろうか。
そうこう思いを馳せていると突然、機械人形が迫ってきた。
「な、なんだ造物.....」
口角が下がった。今度は気の所為じゃない。にしても怒っている様には――
「――ハム。」
「ひえ.....」
機械人形は噛みついた。技師の愛しきサンドウィッチに。
パンに残された歯型は、実に関数じみていた。造物によって付けられた歯型。俺は一体、何を気にしているのだろうか。
それでも躊躇は長く続いた。同じく沈黙が、長く続く。
「造物――」
「――訂正する....... 癖なんだ.........」
間髪入れずに口走った。
長く、短い。そんな沈黙の末に彼女は口を開いた
「.......許す」
彼女は無愛想に、そう述べた。
「......」
違う、笑っていた。多分、笑っていた。絶対に、笑っていた。
根拠など無い。非論理的な、絶対的確信。ただそれだけの理由。存在無き理由。誰が見ようと無表情。誰もがきっとそう宣う。
それでも俺は主張しよう。
なぜなら、笑顔が見えたから。
根拠の無い、そんな主張。
そんな感情。
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