第二話 寝起き

 寝たまま、違う。寝たきり、違う。

 現状の解説に勤しむ彼の現状は、所謂寝転び。起きた直後のソレ。起床を拒む体に鞭を打つための時間。鞭を打たれた体は、不満げにその身を起こした。すると、見知った物が彼の視界に入った。

 またもや凛々しいが、相変わらず吐き気を誘う。

 かの機械人形だ。

 ふと全身に目をやってみた。きちっと着こなされた白いブラウス。取って付けたような金の首飾り。瞳と同色のフレアスカートに、軍人御用達、茶のコンバットブーツ。銀髪製の美術品は、あろうことか解かれていた。

 造られた美しさが、相も変わらず鼻につく。

 所で絡繰。

「起きたか“詐技師”」

「含みがあるな...」

「葉先は尖ってなんぼ。貴しゃまの寝言だ」

 噛むな。そう思いながら、ふっと笑いを堪える。

 他からの嘲は漏れずに不快、そう宣った老耄がいた。そんな老耄も、共に屋根の下敷きに。遺した言葉も嘘塗れ、そんな所。

 所で。

「寝言は言わん」

「だが言った」

「それこそ寝言だ。つまりお前が夢の中」

 絡繰は大きく息を吸った。無論、嫌味ったらしくだ。

 それはきっと溜息を吐くための準備なのだろう。そんな数瞬後に対する予想は、見事に的中したのであった。

「人様に向かって、よくもまぁ見事な溜息を見せ付けてくれるじゃないか」

「絡繰の分際で溜息など吐くなと.....」

 そこまで言ってない。

 己を卑下する人の子は、面倒極む。

 老耄の遺言、まさか役に立つ時が来るとは。

 いや、役に立ってはいないか。

「いやいや...... そもそも前提、人の子では無いのか.......」

「私の事か」

「いや、違う」

 御目目逸らし。

 目を逸らすとは、実質的に肯定のソレなのだ。彼もそれについて知らない訳では無い。無論、自身の失態についても気付いてはいるのだ。

 そこに絡繰の追撃。

「いや、そうだ。そういう顔だ。元より目を逸らすという行為は、図星の証明だと聞いている」

「ぐう」

「ぐうの音を出すな」

 その凛々しさは見掛け倒しかと、嫌味たらしく思ってみせた。

 特に何も、起きなかった。

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