記録3

 途中まで吹奏楽部の友人と下校し、川に架かる小さな橋を渡った所で二人のことを待つ。

 先に来たのは環だった。折り畳み傘を持つ環がどうにも面白くてつい吹き出してしまった。すると、

「何笑ってんだよ。こっちは大変なんだよ」

 と睨まれた。そして、

「ちょっと傘持っててくんね」

 と言われた。言われた通りに傘を持つ。傘をずらしてやろうかと思ったが、僕の良心が働きそれは踏みとどまった。

「よし。あざす」

 と環が呟き、僕が持っていた傘を取った。その環の姿を見て、思わず爆笑した。何しろ、普段は背負うはずのリュックを、自分の体の正面に持っているんだ。

 面白くて、僕が体をくの字にして笑っていると、バシャッと足に水がかかった。何事かと思うと、環が勝ち誇ったような顔をしていた。傍にあった水溜まりを僕に向かって蹴って来たのだと遅れて理解する。

「お前やば! 何小学生みたいなことしてんだよ」

 と笑いながら僕が言うと、

「まあまあまあまあ」

 と環が笑った。靴が濡れるのが嫌だったから反撃はしなかった。

 それからしばらくして、斗真が歩いて来た。斗真は僕らを見るなり、

「こんな大雨の中待ってなくて良いだろ」

 と笑いながら言う。

「そいやー環さん傘二本差しじゃなくて良いんすか?」

 続けて煽るように言った。

「教室に置いてきちった」

 語尾に星が付く言い方で僕も環を煽る。しかし、

「てか二本差しの方が濡れそうだよな」

「それはそう」

「まあね」

 環は至って冷静だった。

 三人で歩いて行くにつれて、雨はどんどん強くなっていった。まだ五時だというのに空は真っ黒だ。僕の靴はもうびしょ濡れだった。

 車が通る細い道だったため、環、僕、斗真の順で一列になって進んでいると、後ろから水がバシャッとかかった。後ろを振り返ると、斗真がニヤついている。こいつやったな、と思った。

「お前もかよ」

 と言うと環が振り返り、

「お前またやられたのかよ」

 と笑いながら言われた。

 余り整備されていない道だから、水溜まりは沢山あった。前にいる環が水溜まりを見つけては飛び込み、後ろにいた僕が一番被害を受けた。ふざけんな。

 少し道が広くなり三人で並んで歩いていると、また水がかかった。今度はズボンまで濡れた。

「お前やってんなぁ」

 そう言って僕は傘をすぼめ、斗真に向けて勢いよく開く。

「うわっ」

 と言って斗真が遠ざかる。それが面白いくて環と二人で爆笑する。それにつられ、斗真も笑った。久しぶりにこんなに笑った気がする。

 それからと言うものの、僕は良心を雨に流し、二人に雨水を掛けまくった。そして掛けまくられた。本当に、ただただ楽しかったなぁ。

 集合場所である公園近くの横断歩道を走って渡った時、環の傘がひっくり返ったのは本当に面白かった。どんだけ脆いんだよ。


 とまあ、こんなことが続き、僕らはもうびしょ濡れだった。母さんには鬼の形相で怒られだけど、最高に楽しくて幸せだった。小学生みたいなことを中学生がしてるのは、ちょっとどうかと思うが……。本当に楽しくて楽しくて仕方がなかった。

「ずっと雨だったら良いのに」

 なんて思ったが、流石にそれは無理だろう。何しろ二人は雨が嫌いだからな。

 ただ、こんなにあんな大雨の中を心から笑いあえるのは、この二人しか居ないんだろうなって思った。

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