第25話

「こいつが原案だぜ」


エリアルが出した紙には、腕輪のようなものが書かれていた。

見た感じ、もしかしてここから魔法を撃つのかな?


「イザベラさんは何と?」

「ここに魔石を埋め込んで、疑似的な弓矢を作って撃つ! そんな感じなんだが、どうも俺に合わなくてな.....」

「どういう形がいいんですか?」


私は尋ねる。

マギ・アローネ〉の術式を使うなら、どうしても弓の形を取らざるを得ない筈なんだけどな.......


「そうだな............武器だけに囚われない、冒険家なら垂涎ものの魔道具が欲しいかな」

「では、籠手型にするのはどうでしょうか?」

「籠手型?」

「ええ、手を覆う形で、内部に魔石と魔力機構を載せます。そうすると、色々な機能を持たせた上で手から魔法を撃つ籠手が作れるんです」

「成程な.......それはちょっとカッコイイかもしれねえ、設計と製造、任せてもいいか.....?」

「はい、任されました」


私は頷いた。




◇◆◇




さて、どうしようかな。

私は設計図を前に思案する。


「外見は、私が作るとして..........内部構造は魔王さんにやって貰おうかな」


今私が居るのは、かつての自分の居た場所だ。

狂った錬金術師の隠れ家。

そこの工房にいる。


「よいしょ............」


私は魔王さんの姿に全身を変化させた。

そして、錬金術を使って出した金属を練る。


「♪」


私は内部構造に魔術文字を刻んでいく。

今の私は私であって、魔王さんでもある。

だからこそ、魔王さんの知識を使える。


「なるほど、この機能をつけるとここの魔術文字と接触しちゃうんだ.....だからここを、こうして.........」


ただ魔力の弾を打ち出すだけなら、楽なのだが......

エリアルの要望に応えて様々な機能を盛り込む必要がある。

『攻撃』『防御』『探索』『鑑定』『移動』――――――と、多彩......悪く言えば贅沢な機能が大量に要望に上がっていたので..........


「私が完成させて見せる! 最強の、魔導籠手を!」


魔王さんの誇りにかけて!

私は「空間拡張」と呼ばれる技術を悪魔の侯爵さんから借りて、籠手の内部空間を拡張していく。

その分修理も大変になるけれど、私が死なない限りは多分修理できる。


「〈錬成ジェン〉」


私は金属を形成して、魔力文字を刻んだ板を覆っていく。

魔力文字を刻んだ板は、隙間なく薄い板が大量にくっついているように見える。

けどこれは、空間拡張で認知が歪んでいるだけに過ぎない。

本当は大きな闘技場一面ほどの大きさの魔力文字盤が重なっている。

それほど、魔道具にたくさんの機能をつけるのは大変なことだった。


「完成....かな」

『待て』


出来上がったものを見て私が満足していると、魔王さんが話しかけてきた。


「なに?」

『飾り気が無いではないか』

「........確かに」


汗をかいて作り上げたけれど、全然かっこよくない。

英雄の像が持っている伝説の武器なら、細かい彫刻がいっぱいあるのに.......


『ならば我に任せよ!』


身体の主導権がなかば強引に奪われて、竜王さんが表に出る。

竜王さんは錬金術を使って、表面に細かな彫刻を刻んでいく。

もちろん、ただの装飾じゃないみたいで........


「魔力が流れてる......?」

『その通り。我らが秘法、龍脈刻印である』

「.....ありがとう、かっこいいね」

『我らが技術、姫の役に立ったようで何より』

『出しゃばりおってトカゲが』

『貴様......我をその名で呼ぶなと』

「うるさい!」


私はつい、叫ぶ。

意識は共有してるんだから、そこで喧嘩したら私だけじゃなくてほかの皆の迷惑にもなる。


『も、申し訳ない.....』

『姫よ、我が大人げなかった......』


大人しくなる魔王さんと竜王さん。


『ふん、欲張るからそうなるのだ。姫の寵愛は常に余に有り』


そして、そこに悪魔の侯爵さんが出てきて、偉そうに言い始めた。

意識の中で激しい口論が起きて、私は頭を抱えるのだった。




◇◆◇




翌日。

私は学校で、エリアルに完成品を見せた。


「おおおおっ!? すげーなー!」

「凄い技術の塊......」

「どこで作ったの?」

「メル、知りたい」


当然質問攻めに遭うが、私は曖昧な笑みで誤魔化した。

困ったら架空の師匠を出そう。


「ただでくれるのか? それとも、どれほどの金額が必要なのかな?」


エリアルは籠手を指でなぞり、言う。

私も対価無しであげるほど馬鹿じゃないけれど、友達にお金を要求するほど腐ってもいない。

ここは、これで手を打とう。


「あなたは偉大な冒険者なのですよね?」

「ああ!」

「卒業したとき、私とパーティを組んでいただけませんか? 断ってもそれを取り上げたりはしません。考えていただけるだけでも良いんです」

「だけど、ケイトにはパートナーがいると........」

「私は彼女の”先生”ですから。彼女は子爵家令嬢、立派にこの学校を卒業できれば、私はもう必要ありません」

「...........俺は君と冒険するために、あの令嬢が家を飛び出すとしか思えないけどね」

「まさか。」


レーナは少々強情なところはあるが、それでも聡明な貴族令嬢だ。

自身の欲と家族の未来についてのバランスはしっかり取れるはず。


「とにかく、これは受け取っておく。イザベラ、俺とこいつを解析してみようぜ」

「良いですわよ、未知の技術が使われているようですし、楽しみですわ」


喜んでくれたようで何よりだ。

私はホクホク顔で席に着いたが、背後から声が掛かった。


「とんでもないものを作ったな」

「.............あれを作ったのは私ではありませんから」

「見抜けないとでも思ったか? お前とよく似た魔力の痕跡を感じる」

「師匠の魔力でしょう」

「ふん」


信じたのか信じてくれないのかわからないけれど、ゼファーに追及はされなかった。

今日もまた、授業が始まる。

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