第20話
受験票を提出して、私は試験会場へと案内される。
大講義室に机が均等に並んでおり、人が間隔を空けて座っている。
見れば、端の机にレーナが座り、緊張の面持ちでいる。
「……復習しないと」
私は頭の中で、覚えたいろんな情報を整理して、綺麗に要点だけをまとめていく。
そして、それらをまとめ終わった時……
「これから試験を開始します! 筆記用具以外のモノは鞄にしまってください、試験中の収納魔法及び魔法鞄の使用は感知型結界により発見次第失格となります!」
と、試験開始の合図がなされ、一拍置いて机の上に魔法陣が浮かび、そこから答案が現れた。
〈
術式を読む限りでは、紙を生成してその上に印字する魔術のようだ。
「それでは、回答を開始してください!」
全員の準備を確認したのか、そんな声が講堂に響き渡った。
数時間後。
私は実技試験会場へと進んでいた。
記述試験の合否は関係なく、多くの人が列に並んでいた。
記述+実技+魔力測定で試験が進むため、合否はまだ分からない。
「はい、128番…ケイトさんは戦闘ですか、魔法ですか?」
「魔法です」
「分かりました、右列にお並びください」
受付で案内を済ませ、右列に並ぶ。
どんどんと列は動いていき、目の前に実技会場の入り口が現れた。
緊張はないけど…
「お入りください」
「はい」
実技試験会場へと、私は足を踏み入れた。
どんな魔術を使おうかと悩みながら。
「それでは、魔法を使ってみてください」
私の前に立つのは、三人の試験官。
誰もが真剣な表情で、私の事を見ている。
その期待に応えるためにも、私は油断しない。
「精霊魔術第87位階、〈
空間が歪み、7つの頭を持ち5つの手に羅針盤、望遠鏡、手記、地図、鑑定魔石を持った精霊が現れた。
「…これは、どういった魔法なのですか?」
「この世界のありとあらゆる情報を知ることができる魔術です、オータム・ロンドさん。幼少期の名前はタム、昨日の夕食はスープ麺、初恋の相手はアンナ・レイル———」
「ちょ、ちょっと待った………今の情報は全て正しいが、君がどうしてそんな魔法を…?」
「納得できないのなら、もう一度使いましょうか?」
「いえ、別の魔法をお願いします」
えっ?
別の魔術…別の魔術…あっ、そうだ!
「えーっと、攻撃魔術を使っても?」
「問題ありませんよ、〈
設置という魔法によって、〈空間収納〉の中にあった的が部屋の奥に現れた。
「行きます…空間魔術第86位階、〈
私が手を振ると、的が上下二つに分かれて落ちる。
「どうですか?」
「……な、何を?」
「えっと…」
私が説明しようとした瞬間、その奥の壁が斜めに切れ、崩れ落ちた。
……まさか、この程度の魔術にも耐えられなかったり……?
「………こちらでは判断できかねます、最後に何か、小規模な魔術をお願いします」
「はい…では、人形魔術第1位階を使います———〈
私の魔術によって、私の身長の倍くらいの騎士が現れる。
騎士と言っても騎士鎧に身を包んだ魔法人形だが。
「騎士、ポーズを取って」
私が命じると、騎士はポーズを取る。
実はこの騎士、中に私の意識を分割して入れてある。
私の意識は沢山の意識の集合体だから、分割すると、一つの意識になる。
もちろんそのまま長続きさせることは出来ないけど、こうして———
「じゃんけん、ぽん」
「信じられない……人形と自分で別々の動きをするなんて…えっ、フェイント!?」
「あり得ん…」
あっ、中の人は多分魔王さんだね。
じゃんけんどころか勝負事全般が得意な人。
勇者と殺し合い以外で戦う方法を模索したのだ〜とか前に言ってたから。
「…もう良いですか? トランプならジョーカーゲームも、ソリティアも、ブラックジャックも出来ますけど」
魔王さん、知識が豊富。
ルールも戦法も共有しているから、泥試合になりそうだけど……
「いえ…結構です、これで試験は終了です。退出してください」
「ありがとうございました」
私が頭を下げると、魔王さんも遅れてお辞儀して消えた。
ケイトが去った室内で、試験官たちは硬直していた。
「なんか…凄いですね」
「ああ、神童とはああいうのを言うのだろう」
「……一旦忘れましょう、正当な成績評価に影響が出ますから」
感嘆する二人に、試験官の一人が鋭い口調で言う。
そう、あれだけ凄いものを見せられれば、一般生徒の必死で練習したであろう魔法もゴミ同然になってしまう。
それ故に、一旦忘れて集中しろということであった。
「「了解!」」
二人の試験官は、声を揃えたのだった。
最後に着いたのは、魔力測定試験会場。
私は皆にどこまで見せて良いか尋ねるが、皆一様に、
『見せつけてやるがよい』
と大騒ぎ。
なので私も、自重しないで行くことにした。
試験会場は、再び大きなホール。
列がいくつもあり、その先には何かの装置があった。
私も列に並び、順番が来るのを待つ。
各列の上には浮遊する板があり、そこに試験者の魔力量が表示されるようだ。
見れば………
『ゼファー・ウィルゴード 魔力量S+++』
丁度ゼファーの番だったみたい。
しばらく列を待っていると、見慣れた名前が端の板に映った。
『レーナ・サマナール 魔力量A+』
うーん、レーナの魔力量…そんなにあったかな?
恥ずかしくない程度には増やしたけど、それでも一般的な数値だって竜王さんが言ってたのに。
そうこうしている内に、私の番がやってきた。
「ここに両手を当ててください」
「はいっ」
私はつい、緊張して…ちょっとだけ強く魔力を流した。
それによって何が起こったかというと…
バァン!!
測定器に付いていた丸い魔法水晶が粉々に弾け飛び、上の板が砕けて落下した。
「あ……あの?」
「…不具合だったかもしれません、別の列にお移りください」
そういうわけで、私とその後ろの面々は別列に並ばされた。
しかし…
バァァァン!!
「…すいません」
「いえ、壊れていたのかもしれませんから…」
その次に並んだ列の装置も、同様に壊れた。
「まだっ、まだです! あり得ないんです、測定できないなんてことは!」
「えっ」
試験官のお姉さんは私をたらい回しにし、結果全ての測定器が壊れて試験は終わった。
結果が待ち遠しいな…
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