間話-4
相手は
魔力容量は今まで見た中では最高クラス。
戦闘能力はB-冒険者クラスだから、フィルには到底敵わない相手だ。
「〈
鑑定魔術第3位階に属する弱点感知で、弱点を素早く探る。
…顎下の、鱗と鱗の境目かな?
「〈
眩惑魔術を使って、地竜に目眩しを試みるが……全く効いていなかった。
匂いで敵を探すのかな…?
『ガアアアアアッ!!!』
「わわっ!?」
当然、ここまでやって地竜が反応しないはずも無く、私を地面に叩き伏せるために腕が振るわれる。
けど…
ガシィ!!
『グオッ!?』
別に私だって、ただぼーっと立って居たわけではない。
こうして、わざわざ腕を差し出してくれるのを待っていた。
腕を掴んで、思いっきり振るう。
『ギャオッ!? ギャアアアアアアアアッ!!!』
私は地竜を振り回して、そのまま壁に叩きつけた。
「起爆!」
そして、その衝撃に紛れる形で先ほど設置しておいた〈
これで、向こうからはこっちが見えない。
私が好きに暴れられる。
『ガッ…ガアアアアアアアアアアアアッ!!!!』
竜が咆える。
パラパラと石が天井から落ちてくる。
それが戦いの始まりかと思ったけど、そうじゃなかった。
奥から更に4体の地竜が出てきた。
仲間を呼ぶために咆えたんだ…
「ふぅん…じゃあ、ちょっと頑張っちゃおうかな」
私は偽装を解いて、元の姿に戻った。
見てる人がいたら、びっくりしたかも…ね。
「行くよ! 〈
放ったのは炎魔術第85位階、空に輝く太陽を小さくして放つ私の本来の通常攻撃用の魔術だ。
眩く光を放つそれを、私は孤児院でよくやる、玉遊びのように思いっきり投げた。
『ギャオッ!? ウギャアアアアアアアアッ!!!』
三体は素早く散ったけれど、一体は避けきれなかったみたい。難無く焔球が鱗を蒸発させて下半身を消滅させた。
更に、残った上半身にも炎が燃え移り、地竜は焼け焦げて死んだ。
あーあ、ああなったらもう食べられない…
じゃあ次は、なるべく魔法なしで仕留めよう。
『ガッ……』
『ガオオッ!』
『ガルアアアッ!!!』
地竜は、私に背を向けて逃げ始めた。
逃げないでよ…
「ァァアアアアアアアアアアッ、グガァアアアアアアアアッ!!!!」
私は自分の体を更に元に戻し、本来の姿の一つである竜へと戻る。
「グガアアアアアアッ!!!」
翼を広げて、爽快感と共に地竜に向かって飛ぶ。
狭いので翼や足がガンガン地面に当たる。
『キュッ、キュウゥゥゥン!!』
追い付かれそうな一体が、お腹を見せて降参するけど……どうせ私がいなくなったら人間を襲うんでしょ?
じゃあ、いただきます♪
「ゴァァアアアアアッ!!!」
『ギッギギャアアアアアアアアアアッ!!!!』
私は右足で地竜を押さえつけると、口を大きく開けて空いたお腹に齧り付いた。
……あんまり美味しくない。
人間感覚だと美味しくないだけで、竜王さんはまあまあ美味しいって言ってるけど。
「…ガフガフ」
でも、一応全部食べておこう。
骨はしっかり仕舞って……ああっ、他のが逃げちゃう。
〈
地竜の身体を素早く仕舞い、私は身体を一旦一段階元に戻す。
「魔王さん、変身!」
私の身体が大きくなる。
魔王さん主導の姿だと男になるのに、私が手動で元に戻ると女のままなんだよね。
魔王さんのローブを纏って、私の頭に二対のツノが生える。
これは魔王さんの種族にしかない特別なツノで、効率よく魔力を集めて蓄積できる器官なんだって。
「魔衝覇!」
魔王さんの種族は、魔力を操ることに長けている。
だからこうして、魔力を練って放つこともできる。
人間だと魔力を魔法で纏わせるのが限界だから、これは相当に強い。
『グオッ!?』
背後から魔力の塊をぶつけられて、地竜の一体が転倒する。
今回は気をつけないと…
「〈
私が使った魔術で、地竜は全身の血を抜かれて死んだ。触ってないと使えないはずなんだけど、魔王様って凄いんだね!
さて、後で焼いて食べるのは確保したし…最後の一匹はどうしよう………えっ、悪魔さんがやりたい?
分かった、そうしよう。
「うーーーーん、悪魔さんに変身」
ツノの形がちょっと変わって、おでこにもう一つ目が出来る。
服を破って大きな翼が生えて、手が膨れて爪も伸びる。急いで靴を脱ぐと、足もだいぶとんがった形になった。
普段悪魔さんに変身しないのは、竜や魔王さんの姿と違って服が消えなくて破れちゃうからだ。
悪魔の公爵さんは謝っているけど、一応これも私の体だから、人間に化けるために悪魔になっても服装はそのままだということくらいは分かっている。
「じゃあ、行くよ!」
私は地竜に向かって飛び出す。
崩落した岩の先から音がするから、早くしないと正体がバレちゃう。
「全力…って、邪魔をしないで!」
苦し紛れになのか腕を振ってきたので、慌てて受け流したら、ボキボキって言いながら竜の腕がもげて飛んでいってしまった。
構ってる暇はない。
私は地竜の魔石目掛けて、腕を振るって…貫通させた。
魔石が砕けて、地竜が一瞬暴れた後静かになった。
私は直ぐに元の姿に戻って、髪と目の色を元に戻して、胸元の魔石を埋めた。
あ、服はどうしよう…いいや、〈
ドガアアアアアッ!!!
服を直した瞬間、岩が砕けてフィルが姿を表した。
「無事かっ!?」
「はい、無事です!」
私は返事をしたけれど、返事がない。
よく見ればフィルが固まっている。
何が起きたんだろう?
まさか時間が止まった?
その時、背後で何かが倒れた。
振り向くとそこには、胴体部分に大穴の空いた地竜が倒れていた。
あ…手加減する暇がなかったから………
「おいフィル、どうした…うわ!?」
「おおっと…こりゃ、怒らせたら怖いな」
私の背後には、腹部に大穴が空いた竜が倒れていた。
「ケイト!? …心配ないみたいね、はあ…私ももっと強くならなきゃね」
割れ目から駆け込んできたアルミナさんは、私を見て無傷であることを確認し、そこから倒れた竜を見て死んだ目になって何かを呟いていた。
強く生きてほしいなあ…
ゴゴゴ……
「ん? 今何か音が…」
上辺りから、音が聞こえてくる。
その音はだんだん大きくなっていって…
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッッッ!!!
「うわーーーーーーっ!?」
「きゃああああああああっ!!」
天井が崩れて、私たちに襲いかかる。
私たちは急いでその場を後にした。
「はぁ…」
私は切り株に腰掛けてため息を吐いた。
あの後、まるで地竜の最期を見届けて満足したかのように、ヨルド大遺構が崩落してしまったのだ。
当然急いで逃げることになったが、死体は流石に回収できず先鋒で活躍して死んだ冒険者は永遠に土の下であった。
「お疲れ様、ケイト」
「フィル……」
「地竜の素材が取れなかったね、多分高く売れただろうに」
「そうですね」
院長先生は本当にブレない。
「でも、君が無事で良かった」
「え?」
「孤児院の子供は絶対死なせたくないって誓ってるからね、危うくそれを破るところだった」
「そうですか……」
英雄譚でよく聞く台詞を、本物の英雄から聞くことになったけれど、私の思う展開にはならなかった。
こうして、サマナールリヒドは再びの安寧を取り戻すのだった。
あ、地竜のお肉は焼いたら美味しかった。
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