間話-2

「さっきも説明した通り、彼女が詰めていた魔物を全滅させ、風の精霊を使って片付けをさせたそうだ。領主様にも問い合わせたが、半信半疑だったところを彼女の名を出すだけで納得して頂いた」

「ジェイソン、なんで領主は納得したんだ?」

「彼女…ケイトさんが娘のレーナ様の魔法の先生らしい。なんでも、魔法の才能がない彼女を数週間で魔法が使えるレベルにまでしたとか」

「何だそりゃ!?」

「すげーな! ケイトちゃん、俺にも魔法を教えてくれよ!」


……ここまで持ち上げられると、むず痒い。

フィルの方を見ると、「僕の気持ちがわかったかな?」とばかりにニタニタ笑っていた。


「静粛に。これから、遺構内に侵入して殲滅戦を行う。最下部が潰れた以上このダンジョンは崩壊し始めていると思うから、退避が可能なように本陣は第二フロアに設置する。いいな?」

「「「「「「おう!!!」」」」」」


凄くカッコいい。

頼り甲斐がある人たちだと私は思った。

あっこら、公爵さまは嫉妬しない。


「ケイトさんを含んだお前らは本陣、俺とアンソルは奥に行って魔物を誘導してくる」

「大丈夫なんですか?」


私は聞く。

三人でも十分に攻略可能な迷宮ではあったものの、今の状況が分からない以上不安がある。


「大丈夫だ、アンソルの格好をよく見ろ」

「えっ?」


よく見ると、帯剣している剣が違う。


「普段のアンソルを見てないから知らないかもしれないが、彼は普段白鉄剣を使っているはずだ」

「はい、ボロボロのあれですよね」


それでもとても良いつくりで、私の魔術付与にも耐えた。

けど、それがどうかしたんだろう?


「今付けてる剣が、フィルを英雄にした宝剣だぜ」

「ええっ!?」


改めて〈精査インタム〉で見てみれば、

【ソート・イム・ラクキア】という銘と、剣自体の強さが分かった。


「凄い…膨大な能力」

「〈精査インタム〉まで使えるのか!? 凄いなフィル!」

「僕も別に知ってて拾ったわけじゃないから…」

「知ってるよ! けどな! お前んところのアナだって今じゃ王国騎士団長アナスタシアじゃないか」


アナスタシア?

確か、王都の英雄の名前だ。

数年前に帝国との戦争で大活躍して、騎士団長まで上り詰めた女の人だって聞いてる。

もしかして、アナお姉さんが……?


「フィル、もしかしてアナお姉さんが…」

「そうだよ、独り立ちして数年間連絡がなかったけど、まさかあんな事になるとはね」


アナお姉さんは私たちにお話をしてくれたり、眠れない子をあやしてくれたりした優しい人だった。

お姉さんと騎士団長がどうしても結びつかない…


「さて…そろそろ行くぞ」

「分かりました!」


出動の時間のようだ。

私は立ち上がり、もう一度服装を整えた。






数時間後。

私は本陣で目醒めた。

夜も更けてきたので、皆が子供は早く寝ろと言って寝かされたのだ。

でも、地響きがしたので起きた。

人には感じることのできない微動だけれど、確かに地響きがしている。


「ロットさん」

「んが…? ケイト、どうした?」

「気配を感じます」

「っ、そうか! おい、起きろー! 帰って来たぞ!」


ロットさんはさっと立ち上がり、大声で叫んだ。

途端に、本陣のあちこちから気配が蠢く。


「起きろアルス! 死ぬぞ!」

「リンナ、わりーな!」


私のすぐ横のテントからも、声が響いてきた。

私はすぐ、迷宮奥側に設けられた簡易防壁に跳び乗る。

すると、奥に人がいた。

急いでこちらに駆けてくる。


「フィル!」

「帰ってきたよ…といっても、入れて貰えそうにないね」


門を開けたら閉めるまでに時間が掛かる。

なので門は開けられない。

けど、私がいるから。


「〈浮遊板フレート・プネラ〉」


二人を浮遊する板に乗せて、防壁の上まで移動させた。


「いやぁ、助かったよ」

「こんな魔法もあるんだな」


その時、大量の気配が近づいてくるのを確かに感じた。


「ッ…来ます!」

「来たか…」

「皆! 攻撃準備!」


振り向けば、第三フロアへと続く道から、膨大な数の魔物が溢れ出てきていた。

フィルが叫ぶと、弓を持った冒険者数人が防壁の上に上がってきた。


「見せてやるぜ!」

「フィル、大丈夫なんですか?」


矢程度で軍勢を押し止められるかは分からない。

私は不安に思ったのだが、それを聞いたのか弓使いの一人が笑った。


「ハッハ、見てろよ嬢ちゃん…トリプルショット!」


武技スキル

その男の人が放った矢は、三つに分かれてそれぞれ魔物の頭蓋を撃ち抜いた。

大蜘蛛、オーガ、ゴブリンと頭の位置がバラバラなのに、どうして…?


「ハハハ、中々頭が回るな。俺は事前にパーフェクト・ショットっていうスキルを使っていたのさ、熟練者にしか使えないが、強いんだぜ」

「ただし、一回使うごとに体力を大幅に消耗するよ。こいつはラーガスって言う奴で、体力には自信があるからこういうことができる」

「そうだな、そして……終わったみたいだ」


ラーガスが言うと、防壁の前に立っていた女の人が叫ぶ。


「〈爆裂バラード・スプローグ〉ッ!!!」


チュン、という音と共に、火の玉が魔物の波に向かっていって爆発した。

薄暗かった洞窟内が、一瞬昼間のように明るくなる。


「彼女はアルミナ、B+冒険者だよ」

「B+がどうして…?」

「偶々立ち寄って居たみたいだ」

「そうなんですね、じゃあ私も出ます」

「おっ、嬢ちゃんの魔法が見れるのか」


私が前に出ると、アルミナさんがこちらを見ました。


「何してるの! 早く止めなさい!」

「今から魔法を使います」


私は魔法陣を浮かべつつ、言った。


「…いいけど、ちゃんと有効打になるんでしょうね?」

「勿論です」


使う魔術は単純。

たった一発だけ。

派手さは抑えて、アルミナさんを立てよう。

魔王さんがそうするといいって言ってるし。


「星幽魔術第8位階、〈存在ディナイアル否定・アスラル〉」

「ウソ、無詠唱!?」


あっ。

そうだった、魔術を詠唱する人も居るんだよね。

レーナは詠唱しないように育てたから、忘れてた。

え? 無詠唱者は全然居ないって?

あはは魔王さん、冗談はやめてよ。


「な、何あれ………ウソ、有り得ない…ありえない…」


そして、私の放った魔術は魔物の第一波を全滅させた。

呪怨魔術よりかは派手ではないと私は思うけれど、どうだろうか?


「まさか……これ程とはね」


魔物達は皆、泡を吹いて死んだ。

存在を否定するこの魔術は、抵抗できなければ死ぬのみだから。

ね、地味でしょ?

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