間話-1
「ちょっと来てくれるかい」
孤児院で年少の皆にお話をしていると、そこに院長先生がやってきて私を呼んだ。
私がついて行くと、先生は自室に入った。
私もついて行く。
「この間、ダンジョンに行ったよね」
「あ…はい」
「あのダンジョンが、今何か起きてるみたいでね? 冒険者が駆り立てられてる」
「………それが、何ですか?」
「僕も行くことになるだろうから、皆に説明を宜しく。」
その言葉に、私は身を乗り出した。
「私も行っていいですか!?」
「ダメだよ…って言っても君は聞かないだろうね」
流石は先生、よく分かってる。
でも、私は折れない。
絶対に行きたい。
「…仕方ない、君が強いのは分かってるから…周囲の大人の意見にちゃんと耳を傾けるなら、行っていいよ」
「分かりました」
というわけで、探索隊について行くことになった。
院長…フィルと私は、街を出てヨルド大遺構近くのログハウスへと向かう。
そこには、沢山の人が集まっていた。
「ようアンソル、よく来てくれた」
「ああ、緊急事態なんだろ?」
「そうだ…って、そっちのお嬢ちゃんは?」
「私は、ソルマ孤児院のケイトと申します」
「連れ添いかぁ? 泣いて縋られたのかも知れないが、ちゃんと置いてけよ」
「いや、彼女は仲間として呼んだ」
「おいおい、救国の英雄がナマったか? 男ならともかく、女でしかも子供だろうが、盾にでもするのか?」
「ケイトは魔術を使える」
「——————ははは、冗談はやめろよ、魔法ならともかく魔術だ? ホラ吹くなよ」
「………〈
私は魔術を使う。
大地魔術17位階に属する、〈
それによって、私の掌に一つの鉱石が現れた。
「な…なんだ!? くれるのか?」
「見たかな? 彼女が作った輝石を」
「ああ……だけどよ、戦えるかどうかは……」
「〈
私は次に、氷の牢獄でその人を閉じ込めた。
その人は、自分に何が起こったかを理解するのに数十秒かかり………
「っは…分かったぜ、連れて行ってもいい」
「ありがとう、セイン」
「俺はセインじゃなくてセインハルトだぞ」
「長いからセインでいいよね?」
「それでも俺はセインハルトなんだ」
問答を続ける彼等を放って、私は小屋の中心に向かう。
そこでは、数人が話をしていた。
「〜でな、四階層に…」
「おかしいな、今までにないパターンだ」
私が入っても仕方がないので聞き耳を立てていると、そんな話が聞こえてきた。
「第七階層が壊滅している」
「なるほど…だがそれだけでは………」
「十二階層が崩落して、十一階層の魔物が溢れ出してきている」
「なるほど…」
その説明に、私も納得する。
私たちがあのヨルド大遺構の本来の目的を終わらせたからこそ、ヨルド大遺構は崩壊しているんだ……って竜王さんが教えてくれたから。
その時、バン! 音を立てて扉が開いて、切羽詰まった様子の男の人が入ってきた。
「敵の数が増えた! ここを引き払うぞ!!」
こうして、私たちは撤退を余儀なくされた。
その後、ログハウスを魔物の群れが蹂躙し、後には何も残らなかった。
「凄いね……」
「凄いですね」
撤退した私たちが、近くの崖の上から見たのは……ヨルド大遺構の周辺の森。
鬱蒼と茂る葉の合間から、物凄い数の魔物の姿が見える。
「まだ仕掛けちゃダメだよ」
「はい、サマナール子爵様に森林を傷付けても問題ないか問い合わせているんですよね?」
「その通り。延焼でもしたら貴重な森林資源が失われてしまうからね」
サマナール子爵様も、優しいとはいえ手に入る財をわざわざ手放すほど抜けていない。
無許可で延焼させれば、打ち首もあるだろう。
「フィル」
「ん? どうしたんだいケイト」
「今、森の中には誰もいない?」
「………居ないはずだ、斥候も下がってると思うしね」
「じゃあ、私が全部倒します」
「…………いいのかい? 燃やしたらダメなんだよ? 傷付けてもダメだ」
「はい」
私は笑顔で言った。
凄く強いけど、出番の少ない魔術を使えるのだ。
「呪怨魔術第3位階………」
私が両手を広げると、黒い魔法陣が浮かぶ。
「〈
たったそれだけで、ヨルド大遺構から流れ出ていた魔物は一斉に命を奪われて倒れた。
本来であればデメリットとして寿命を削るらしいんだけど、私の寿命はもう数万年を超えるらしいので気にしない。
「………………へ?」
「終わりました、フィル」
「…………なるほど、これは凄い」
フィルは納得したように頷いた。
私も、釣られて笑った。
「わわっと……忘れてました。〈
私は風の上級精霊を召喚し、命令する。
「魔物の死体を一箇所に集めておいて」
「………。」
精霊は喋らないけれど、召喚者には忠実だ。
皆に説明してるうちに片付けてくれるはず。
私は精霊を送り出して、フィルに向き直った。
「皆を集めて、今後の計画を練りましょう」
「あ、うん……何か優秀な子の親になると大変だね」
フィルは一瞬で疲れ切ったような顔をして言った。
「でもフィルは、救国の英雄なんですよね?」
「数十年前、ゼルドプル神聖大公国との戦いで、王都が攻められた事があってね。その時、たまたま王国の宝剣を手にして三日三晩戦い続けたら、そう言われただけなんだ」
「十分凄いじゃないですか?」
「一箇所の門から来る敵をひたすらに斬って斬って斬りまくったら、勲章までもらっちゃったのさ、はぁ………」
フィルは何でもないことのように言っているのだけど、魔王さんが言うにはかつて存在した勇者でも、勲章をもらう前に謀殺されちゃったみたいだし…相当貴重なものなのかも。
「フィル、皆が来ました」
「ああ、そうだね…」
フィルは一瞬で元の雰囲気に戻り、急いでやってきた仲間に振り向いた。
「状況はどうだ!」
「全滅したよ」
「あぁ!? 冗談もほどほどに………何ぃ!?」
フィルの仲間達は、ひしめいていた魔物が一匹もいない事に驚いている。
「な…なにが起こった…?」
「私が全滅させました」
私は素直に名乗り出るが、仲間は信じられないと言うふうに首を振った。
「フィル、隠し事はなしだ。何があった?」
「彼女が全滅させたよ。今頃魔物の死体を風の精霊が片付けてる」
「ハァ? 精霊も使えるのかよ…」
さっき私を引き留めた人が、驚いている。
「……分かった、確認して来る。それが事実であれば、突入策を練ろう」
「護衛はいるか?」
「ああ、2、3人集めてくれ」
その人は、私を一瞬見て、すぐに取って返した。
驚いていた人が、その後を追う。
「彼はジェイソン、で驚いていたやつが…」
「セインハルト、ですよね?」
「覚えてたんだ」
フィルは驚いたように呟く。
「さあ、僕らも仮拠点に行こう。そこで休憩してから、突撃するなり一旦帰還するなり考えるんだ」
「分かりました」
私は頷き、フィルに従って歩き出した。
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