第14話

第七フロアは、私たちの想像を遥かに越えていた。


「………どうして、岩がこんな形に!?」

「これほど大きくて広い鍾乳洞は、中々お目にかかれないよね…」


鍾乳洞。

知識でしか無かったそれが、私たちの前に現れた。

こんなものが自然に生まれるんだ……


「おっと、各自警戒! この階層には岩系の魔物がよく出るよ!」

「はいっ!」

「待って」


私は〈存在サーク感知・アスラル〉を発動したが、周囲に魔物が居ないという判定になる。

だが、私は生き物の気配を、鮮明に感じていた。


「〈存在感知〉の反応がおかしい。もしかすると、ここの魔物は無生物系か、魔力に対する耐性があるかもしれません」

「分かりました!」

「やっと僕の出番かな?」


〈存在感知〉は微弱な魔力を放ち、それに引っかかる存在を知ることのできる魔術だ。

つまり、相手には魔力に対する耐性があるものの、そこまででは無い。

下位魔術でも、第5位階より上なら倒せるはずだ。


「フィル、私たちなら全く戦えない訳ではない」

「そうか…おっと!」


その時、すぐ側にあった岩が動き出し、フィルに向けて突進する。

フィルはそれに向けて剣を振るが、ガァァァンと音が響き、剣が弾かれてしまう。


「〈剣技昇華フィーオラ〉」


私が魔術を発動すると、フィルの剣捌きが明らかに変わる。

岩の脆い部分を突き、確実に崩す剣に。


「はぁっ!!」


フィルの一閃で、岩の魔物が斬り飛ばされ、絶命する。


「凄いです!」

「そうかい? そりゃ良かった」


絶命した岩の魔物、私はその半身を、こっそり回収する。


「………先を急ぎましょう」

「そうですね!」

「ああ」


そして私達は、また進み始めた。

しばらく進むとまた、天井から岩が落ちてくる。

岩は動き出し、集団で私たちを襲う。


「〈火焔バラード・フレジア〉!」


レーナが火焔弾を放つが、それらは岩の魔物に当たった瞬間に散らされてしまう。


「はぁ…〈純水バラード・アクラム〉」


私が放った弾は岩の魔物に浸透し、一撃で死に至らしめる。


「相性を考えましょう、レーナ…通常、岩に火をぶつけたところで効果はありません、対して水は岩を削ることができます、その中に浸透し、脆くさせることもできます」

「はっ、はい!」

「…僕は普通に割らせてもらうよ」

「〈巨威ギガンティア・ソート〉」


私の魔術が、フィルの剣に効果を及ぼす。


「何を…?」

「扱いに気をつけて、それは巨人の拳の威力と同等、脚に落としたら命がない」

「おおっと……」


フィルは素早く岩の魔物に近づき、剣をその身に落とす。


バガァン!


そんな音を立てて岩の魔物が砕け、中の肉が飛び散った。


「うっぷ……」

「レーナ?」

「だ、大丈夫です…」


私たちが頑張るまでもなく、残った魔物はフィルが倒してくれた。

けれど…


「うぅぅ…気持ち悪いです…」

「ごめんね、まさか中身がこうなってるとは」


周囲には、沢山の魔物の死骸…中身が飛び出たものが倒れている。

臭気も凄まじく、吐き気を催しているレーナ。

でも、この臭いはむしろ、美味しそう…


「ごくり」

「ケイト…?」

「何でも無いですよ、レーナ」


おっと、何でもない何でもない。

さっさと進もう…

しばらく進むと、開けた場所に出た。


「おや、この辺には魔物は居ないんだろうか?」

「待って……下、下です!」

「!」


レーナが叫んだ瞬間、地面が崩落して、そこから巨大な岩の魔物が現れた。

4本足のそれは、地団駄を踏むように足を動かす。

地面が揺れ、周囲の岩が落ちてきて本性を表し、私たちに襲いかかる。


「は、〈断絶ハース結界・レクリガード〉!」


レーナが結界を張ろうとした時。


「QIYUOOOOOOOOO!!!!!」


巨大な岩の魔物が、精神を揺らすような声を上げた。

それによって、レーナが描いた魔法陣は霧散してしまう。

私が代わりに結界を張ろうとするが……


『姫が危ない!』

『アイツを殺セ!』

『我らに命令を!』


心の奥底から声が響く。

私を心配した混ざった者たちが、表層に出ようとしているのだ。

ダメ! 何でもないから、今出たらダメなの!


『姫がそう言うなら…』

『ダメダ! ソウ言って何でモ無かッた事があるノカ!?』

『そうだそうだ!』


ああもう!

私が悪戦苦闘している中、前線ではフィルが一人戦っている。


「うおおおおおおお! ワイドスラッシュ!」


キィィィンと斬撃が走るが、岩の魔物は無傷だ。

当然である。

私が魔術を使えない状態では、そうなって当然だ。

くっ、魔力が乱れて………


「きゃあっ!」

「レーナッ!」


見れば、レーナが岩の魔物に襲い掛かられていた。

私はレーナの前に立ち塞がり、攻撃を受ける。

痛みも無いし、傷も付かない…けれどレーナは、私に悲痛な叫びをぶつけた。


「ケイトーーーーーッ!!」

「大丈…夫!」


私はこっそり襲いかかってきた魔物の一体を噛み砕き、言った。

だが、そのせいでレーナの背後に岩が落ちてきていたことに気付かなかった。


「ケイト、待ってて———きゃあっ!!」

「レーナっ!」


レーナが背後から岩の砲弾を受けて倒れる。

その光景を見て、私の中の何かが切れた。


「いい加減に…してえええっ!!!〈殲滅ヴァルガドム・波動ジェルサイエブ〉」


素早く冷静な部分が反応して、レーナとフィルに〈時空ヴァース結界・レクリガード〉を展開して守る。

殲滅の波動が辺りを破壊し尽くし、あらゆるものを灰燼へと変える。

次に気付いた時には、私は何もない空洞に立っていた。


「………やっちゃった…」


私の使える魔術の中でも狭い場所では最強クラスの破壊力を誇る漆黒魔術第42位階魔術、〈殲滅ヴァルガドム波動・ジェルサイエブ〉。

それをここで使ってしまった。

素早く結界を張らなければ、レーナとフィルは魂すら燃やし尽くされて二度と蘇生できないほどになっていただろう。

私は静かに、後悔するのであった……

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