第12話

休憩した私達は、迅速に移動を続ける。

最初の吊り橋がある場所へは、少し降りていくと辿り着くことができる。


「恐らくだけど、この真下は第六層ではないと思う。無限に広がる闇があるのか、底があるのかは知らないけれどね」

「落ちたらまずいってことですか?」

「その通り」


渡る前から怖くなるような話をしつつ、私達は

橋の最初の板に足を掛けた。


ギィ……


「まぁ、大丈夫そうですね」

「何を根拠に?」

「ほら見て、揺れが大きい。揺れが小さいということは同時に紐がきついという事だ。そうだったら、小さな衝撃でも積もり積もっていずれは崩れてしまうかもしれない」


流石C-ランク冒険者、その辺は心得ている。

C-ランクと言うと無知な人は低いように見えるだろうが、G-ランクが最低、その下にアンランクが存在する事を考えると中堅なのだ。

多分、結構な死線を潜ってきたのだろう。


「僕がこういう仕事で金を稼いでるってことは、皆には内緒だよ」

「はい」


やはり立派だ。

院長は子供に負い目や余計な心配を持ってほしくないのだろう。


ギィ…ギシ…ギシ…


私達は気を付けつつ、最初の吊り橋を渡り切った。

傾いた塔の内部へと入った私達は、異様な光景を目にした。

私も目にした事がある、ルシア教の主神ルシアーナ様。

彼女の石像が、天井から鎖で縛られて吊るされていたのだ。

その体はあちこち損傷し、顔は潰されている。


「なっ…………」

「ああ……」

「ひぃっ……」


特に信心深い訳ではないが、私はその光景にそれを行った者の言い知れぬ執念と憎しみを感じた。


「か、階段がある…上に行こう」

「そうですね…」


フィルとレーナはそそくさと階段に急いでしまったが、私はその像の下の石板に惹きつけられていた。

私の中に存在する十二大魔術のひとつ、〈生命魔術〉が反応したのだ。

そして、石板の意味がないと思っていた文字列が変化する。


『神に抗える者よ、志を捨てず、必ずや身勝手な神の秩序を終わらせ給え』


……私の中の皆から神は信用するなと言われていたけれど、やっぱりね。

神は……人間の敵だ。







一つ目の塔を四階分登ると、次の塔への吊り橋があった。


「早く行きましょう、恐れていても何も始まりません」

「そうですね、ケイト」

「そうだね…僕が先行するよ」


私達は吊り橋を渡る。

あまり揺れず、渡り心地は悪くなかったが……


「きゃっ!?」

「何かいるぞ!」

「〈永続光球インフィス・リクネア〉」


私の魔術で、薄暗かった橋の上に太陽の如き光を放つ、光の球が生まれる。

それによって、襲撃者の正体が明らかになる。


「『奇襲蝙蝠パルーアダーツ』!」

「ちっ、足場が狭いな……横薙ぎ!」


フィルが戦技を使って襲ってきた蝙蝠を叩っ斬る。

黒い体毛で、露出部分もほぼ無いため暗闇では非常に見えにくい。


「〈任意対象指定ロカーネ〉、〈炎上ブレジアナ〉」


私が魔術で燃え上がらせる。

これで倒せたかと思ったのだが、事態はさらに悪化した。


「きっ、きゃああ!」

「気を付けろ! バラバラに襲って来るぞ!」


火のついた蝙蝠達は、死に物狂いで突進を仕掛け始めたのだ。


「ロングスラッシュ!」


レーナに向かって飛んできた蝙蝠を、フィルが斬り飛ばす。


「皆、集まって!」

「〈低位ゼム・結界レクリガード〉!」


私たちが集合すると、意図を即座に理解したレーナが結界を張る。

火のついた蝙蝠達は暫く周囲を飛び回り、結界にガンガンとぶつかっていたが、命が尽きたのか底の知れぬ暗闇へと墜ちて行った。


「…行きましょうか?」

「はい!」

「ああ…奇襲蝙蝠の翼はそこそこいい値段で売れるんだけどな」

「ちゃんと取ってありますよ」

「ほ、本当かい?」


私の食べ残しだけど、良ければ……







数分後、私達は二つ目の塔に辿り着いた。

二つ目の塔には、中心に柱のような…機械のような、どちらとも付かないモノがあった。

勿論無視して、次の塔へと向かう事にした。

次の塔への吊り橋はとても短く、急いで走り渡った。


「次の橋は長いね……」

「油断しないようにすれば問題ありませんね」

「一気に駆け抜けましょう」


私は全員に〈加速ヘイシス〉を掛ける。

それによって、あらゆる動きが加速される。

これは身体強化というより、時間そのものの加速とされている。

身体強化であれば知覚能力が強化された肉体の動きに追随できず、自爆してしまう事もあるからだ。

……って魔王さんが言ってた。

私はよく知らないが、魔王さんの住んでいた国はとても発展していたそうだ。


「3、2、1、今だ!」


私達が一気に吊り橋を駆け始めると、上や横から何かが次々と襲いかかって来る。


「こっ、これは…?!」

「さっきと同じですね、早く抜けましょう」


私たちは吊り橋を一気に駆け抜け、奇襲蝙蝠を振り切って最後の塔へと入ったのであった。

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