第11話

第三フロアへと辿り着いた私達は、困難に直面していた。


「どうして、こんな事に?」

「そりゃ、大遺構だからね…」


第三フロアにはゴブリンの巣穴跡があり、無数のアンデッドが生息していた。

生きているわけではないんだけど……


「聖なる力よ、集まれ…そして夜闇を照らす光が如く突き進み、穢れし亡者を打ち倒したまえ…〈聖弾エータル〉」

「はいはい、〈範囲浄化レロン・エータル〉」

「凄いね、二人とも…」


スケルトンやゾンビ相手に出来ることのないフィルが呟く。

勿論、レーナには秘密にする様に言っている。

裏技的な方法で習得したが、本来聖魔術は神官や聖女、司祭にしか扱えないとされているから。

別に神聖魔術も私なら使えるが、あれは目立ちすぎる。あと範囲が広すぎる。

ダンジョン全体を浄化して仕舞えば、レーナが経験を積む場が無くなる。


「フィルも行って」

「ど、どうやって?」

「〈神聖付与テッラ・エータル〉」


私がフィルの構えた剣を指でなぞると、剣が淡く光り出す。


「ほら、行ってください」

「わ、分かったよ…」


本来なら院長をこき使うのは気が引けるのだが、今は依頼人ケイトと冒険者フィルの関係なので、特に問題はない。


「はあっ!」


フィルは一気に数メートルの距離を駆け抜けると、そこに居た武装スケルトンに斬りかかる。


「うわっ!? …なんともないか」


武装スケルトンを一撃で倒したフィルに、聖魔術が直撃するが、傷はない。

人間に対しては聖魔術は治癒となるからだ。


「何だか疲労まで消えたような…おりゃあああっ!!」


フィルは漲る力を抑えきれないようで、襲ってきたスケルトンを一撃でバラバラにする。


「お見事。〈範囲浄化レロン・エータル〉」


最後は私が、残ったスケルトン達を纏めて消し去った。


「はぁ………よし、次に行こう」

「了解」

「分かった」


私たちは先を急ぐ。

第三、四フロアは似たような場所だったが、第五フロアは私たちの予想を大きく上回る場所だった。


「なんだこの広い空間は………」


確かに階段が長いなとは思っていたが、これほどだとは……

私たちの目下には、底の見えない暗闇と、その闇から聳え立つ何十本もの傾いた塔だった。


「ど、どうやって渡るんでしょうか…?」


レーナが不安げに言う。

空を飛ぶ魔術は教えたけれど、中級じゃ襲われた時に対処できない事を理解しているんだろう。


「落ち着いて。よく見ると何か細いものが見えないかな?」

「確かに」


塔と塔の間に線のようなものが張り巡らされている。

遠すぎてよく見えないが……


「あれは多分橋だね、飛ぶよりはマシなはずだよ」

「じゃあ、早速向かいましょう」

「待って、ここで休憩しよう」


フィルの発言にレーナが不満そうな顔をするが、私はそれに賛同する。


「そうですね、頭は大丈夫と思っていても身体は疲れていますから…数分休憩して行きましょう」

「分かった、何かする事は?」


別に休憩なのだから、必要ないとは思ったけれど………


「これを沸かしてください」

「分かった、燃料は松脂で良いかな」

「はい」


私は空間魔術の収納からハーブティーの入った薬缶を取り出した。

それをフィルに渡すと、フィルは荷物から道具を取り出して、素早く竈門を完成させた。

そしてその上に薬缶を置く。


「火を付けるよ」


ガサガサと作業をしていたフィルが、火打石を取り出した。

それを私は手で制止する。


「せっかく魔術師と来てるんだから、これくらいは…〈火種フレス〉」


私が生み出した火種をピンと弾くと、それは竈門の中に飛び込み……急速な燃焼を引き起こした。

勿論それは一瞬で、魔力の影響の消えたそれはただの火となって薬缶の底を焼く。


「……此処じゃなければ、良いですね。こういうのも…」

「僕は慣れたもんだけど、一人の時とはまた違うね」

「私は一人だったことがほぼ無いですから、ちょっと分からないですね」


私はいつだって誰かと一緒だった。

家族と、狂った錬金術師と、孤児院の皆と、仲間と………

私が過去を思い出していると、ふつふつと沸騰音が聞こえてくる。

同時に、気分が落ち着くよい香りも……


「さて、沸いたようなので飲みますか」


私は二人にコップを配る。

コップに並々とお茶を注ぎ、3人分配り終えた。


「丁度ピッタリ3人分ですね」

「そうか……僕は猫舌だから、これを飲んだら出発しよう」


私たち3人は、思い思いにお茶を飲んで休憩した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る