第6話

貴族のお嬢様の先生になった。

そう伝えると、院長先生はふらっと倒れそうになる。


「き、君にはいつも驚かされるね……それで、給料は貰うのかい?」

「はい、月給20金貨らしいです」

「それは………何に使うか決まっているのかい?」


院長先生が小動物のような目でこちらを見てくる。

孤児院の運営費もバカにならない。

私にお金を入れて欲しいのだろう。


「特に決まっては居ませんけど……月に銀貨500枚分なら孤児院に寄付しようと思います」


私はそう言って笑う。

決まっていないというのは嘘で、本当は自立の費用に充てようと思っている。

後、唯一の娯楽である食事にも。


「ありがとう! 本当にごめんね……」


院長先生はそう言って私を抱きしめた。

金に汚い人間と人は思うだろうけど、私に金を出させる方法なんていくらでもある。

育ててやった恩を盾にするもよし。

力づくで脅すもよし。

私に罪悪感を抱かせるもよし。

けれど先生は、欲しいとは一言も言わなかった。

なら、それくらい信用しても良いのではないかと私は思った。




「おやまぁ、ロイドんところのお嬢様の教師かね…」

「ご存知なんですか?」

「ご存知も何も、私の初めての恋人だったからねえ」

「へえ…」


ということはこのお婆さんも…同じくらいの出なのかな?

と思ったが…


「ああ、勘違いさせちまったかいな。私ゃ昔っから魔術に嵌りきりでね、仕事の合間に魔術の教本ばっかり読んでたもんで、神秘的な姿に惚れたとか言ってロイドとお付き合いさせてもらったのよ」

「えっ…?」


でもこのお婆さん、どう考えてもロイドさんと20歳くらい離れてない?

そんな小説みたいなことって、あるの?

え、ヴァンパイアさんはあるんだね…でもちょっと黙っててね。


「まぁ、周囲は信じちゃくれないけどね。ロイドは私と別れた時も、この恋愛が私に迷惑を掛けると言って別れたんだよ」

「そうなんですね…」

「ささ、辛気臭い話はここまで。私ゃもう長くないんだから、パパッと終わらせてしまうよ!」

「はーい!」


私はお婆さんに、再び魔術の問題点や綻びを指摘し始めるのであった………




そして、夕飯の時間になった。

今日は私が漸く使える様になったお金で、購入した肉がメニューに入っている。

持っている大量の素材を売れば金は手に入れられたが、私は何となくそれらを売り払うのは嫌だった。

自分を切り売りする様で。


「うーん…!? なに、このお肉…?」


スープに入っている肉を食べ、驚くファーナという歳下の子。

スープがいつもよりも味わい深く、驚いていたところに普段は出ない上等な豚肉が口に入り、驚いたということだろう。

私もスープを口にする。

うん、美味しい。


「絶対、そのままの方が美味しいと思うんだけどな……」


私はそう思いつつ、黒パンをスープに浸して柔らかくし、口に入れる。

黒パンはそのままだと硬く、未発達の歯では噛みきれないため、皆水やスープに浸して柔らかくしてから食べる事が多い。

私はそのまま食べる方が好きだけれど。

でもやっぱり、ずっとこのままじゃダメだ。

私はもう少しで成人なので、このままレーナお嬢様の教師を続けてから、貯めたお金で旅に出よう。

私はそう思いつつ、豚肉を口に放り込んだ。

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