第5話

「それでは、ここで頼む」

「分かりました」


私は屋敷の中庭に立つ。

それなりに広いが、派手な魔術を打つにはやはり狭い。

なので……


「〈断絶結界ハース・レクリカード〉」


周囲に結界を張る。

この結界は内部からの影響を外部に、外部からの影響を内部に与えることのない完全な断絶を実現できる結界だ。


「さて………魔術には位階があるのは御存知でしょうか?」

「ああ。確か、上級治癒魔術は第9位階に位置するものだったような…」

「ならば話は早いです。今から使う魔術は炎魔術第21位階に属するものです」


ちなみにさっきの〈断絶結界〉は結界魔術第45位階に属するもので、人間の記録では結界魔術は伝説の魔導士が使用しているとされた第24位階に属する〈遮断結界シャール・レクリガード〉までが限界とされている。


「ほう、では見せてもらおう」

「〈炎神龍ジェネリクト・プロメリアス・ドラグーナ〉」


私の周囲を、炎が覆う。

次の瞬間にはそれは一つの筋となり、線となり、塊となり……


ゴオオオオオオオオオオォォォォッッ!!!!!


巨大な龍の形をした炎が結界にぶつかり、大爆発を起こす。

そして、爆炎が私とロイドさんに迫り……


「〈対炎結界バルスト・レクリカード〉」


その手前で発生した結界に激突して霧散した。

ただ、その勢いは伝わったのかロイドさんは倒れ込みそうになる。


「落ち着いてください、すぐ消しますから」

「あ、ああ…」

「氷魔術第57位階、〈氷獄世界フロズエ・カカルガント・ワーリム〉」


氷魔術と言ってはいるものの、これは完全に世界の理に干渉できるものだ。

なんで私が、これを使えるかといえば……

そう、伝説の魔導士の使用していた魔術書、「アルカナスミコン」はあの錬金術師の家に何故か保管されていた。

つまりは、私は魔術に於いては並び立つ者の居ないほど広い知識を持っているということだ。

そして、私を造る素材となった魔石の魔力も、私の膨大な魔力容量を作る助けとなったわけだ。


「な、何だこれは……?!」

「さて、リクエストはありますか?」

「な、無い…任せる」

「そうですか…じゃあ、これを」


私は詠唱する。

無詠唱が可能であっても詠唱しなければいけないほどの魔力を消費する、強力な魔術を。


「奇跡魔術第1位階、〈請願成就セメリル〉」


この魔術ですることは単純だ。

魔力を捧げて、願いを叶える。

それは捧げた魔力に応じて何ができるか変わるのだ。

そして、私の捧げた魔力は………


「お、おおおおおおおぉぉぉ…」


庭の焼けた地面を元に戻し、花畑に変え、その上に無数の蝶を生み出した。

ロイドさんが驚いて、腰を抜かしたのか尻餅をつく。


「これで良いですか?」

「ああ、ああ………何も言う事はない、君を教師に命じる。報酬は直接渡そう」


どうやら、お仕事に就けそうだ。

その時、私は重要なことを思い出す。


「あの、お仕事は毎日あるんですか?」

「…君の予定に合わせよう」

「じゃあ、一日授業をしたら一日休みでも良いですか?」

「何故だね?」

「町外れの魔術師のお婆さんの所で、研究のお手伝いをしているので…」


あのお婆さんを悲しませる真似だけはしたくない。

最初こそ半信半疑で私に接していたが、今では十年来の友のように研究を一緒に進めているのだ。


「………ああ、あの婆さんか…良いだろう、老い先も短いであろうし、生涯をかけた研究を終わらせてやりたい。」


ロイドさん、意外と人情派なのね…

私は人間にもいろんな人がいるんだなぁ、と思いつつ頷いた。

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