第2話
孤児院の暮らしは、かつての暮らしよりはずっとマシだ。
朝早く起きて、国教のルシア教のお祈りを済ませた後、朝食を摂って各自のお仕事に行く。
もっともお仕事といっても大人の助手程度だが、コレによって将来進む道を決める子もいるそうだ。
孤児院には夕方まで戻って来ず、昼食は向こうが提供するのだ。
勿論仕事をしない子供には昼食なんて出ないけど、前の暮らしでは仕事をしても食事が満足に食べられないものだったから、私からすれば相当いい待遇だ。
この体を維持するために食事は必要ではないけれどね。
周囲から取り込んだ魔力で生きていけるので、食事は習慣と日々の楽しみのようなものだ。
そして、仕事を終えた後は皆で集まって夕食を食べ、夜の内職を終えたら集まって川の字で寝る。
これが孤児院での生活だ。
そして今、私は仕事先………魔術師のお婆さんの家で魔術書の整理をしている。
もっとも、それは表面的な話であって…
「ケイトちゃんや、ここの術式はどうすればよいのかねえ」
「えーっと、ティルの文字がここにあるので、ヒーヴェをここに置いて伸ばし十字を付ければ良いはずです」
「どれどれ……おお! 凄いねぇ、私ゃ思い付かなかったよ」
魔術師のお婆さんの家で働くことになった私は、初日にかなりいびられた。
仕方がないので研究のお手伝いを軽くしてあげたら、それからは家の手伝いよりも魔術の研究の助手をやらされているのだ。
「これだけ魔術の才能があると、やっぱり魔術ギルドに行くのかえ?」
「あはは…どうでしょうか」
実の所私は冒険者になろうと思っている。
人の居ない魔物の領域なら力を振るえるし、それで生活もしていける。
食べなくても生きていけるなら山籠りも良いかもしれないけれど、私は狭い世界で終わりたくはないと思っている。
この広い世界を見て回りたい。
その為に冒険者という地位を得て旅をするのだ。
うん、いい考えだ。
それに………こんな言い方は変だけど、死に場所を求めているのもあるんだよね。
安心して死ねる場所を見つけたら、人生を寿命くらいまで生きてそこに行こうと思っている。
「まあ、行く場所が無かったらうちに来なさい。ここは借りてる土地じゃ無いからねぇ、あんたの宿くらいにはしてあげるよ」
「良いんですか?」
「老い先短く、限界も近い。遅々として進まない研究に焦ってた時にあんたが来たからねえ、私も助かってるのさ」
お婆さんはそう言って笑った。
それから数時間、手伝いをしながら自分も魔術を創作していると、時計がカチリと切り替わり、[夕方]となった。
「おや、もうこんな時間かね…今日はもう良いから、孤児院にお戻り」
「ありがとうございました!」
「こちらこそねえ」
私はお婆さんの家を後にする。
お婆さんの家は少々街から離れているので…
「〈
魔力を渦巻かせ、私は孤児院近くの倉庫の傍へと転移する。
視界が一瞬歪み、直ぐに元に戻るともうそこは街の中である。
急いで孤児院に戻ると、そこではもう殆どの子供が集まっていた。
「おせーぞケイト!」
「ゲイル、お前も遅れただろ!」
私に避難するように叫んだのはゲイル、それを諌めたのはロズだ。
「はいはい、皆静かにして…これから夕食だからね」
パンパンと手を叩いたのは院長だ。
いつも目を細めている美男子で、孤児院の女子から物凄い人気がある。
「今日もよく働いてきてくれたようで嬉しい。君たちが輝かしい未来を歩けるようにサポートするのが僕らの役目だからね」
「「「「「「ありがとうございます」」」」」」
全員が感謝の言葉を述べ、解散となる。
その後食堂へと移動し、夕食を摂った。
メニューは肉と野菜を挟んだパンに、芋の入ったシチューだった。
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