第36話 トーナメント大会、開始

 王配選手権の開催日となった。闘技場の客席は満員御礼の大盛況だ。観客たちは、エルウッドの登場を今か今かと待ち構えていた。


「きゃー、エルウッド様~!」

「こっち向いてくださいまし、エルウッド様~!!」


 王都にある闘技場には、大勢の人々が詰めかけている。

 中でも飛ぶ鳥を落とす勢いの、若き騎士団長エルウッドは女性人気が高い。会場では黄色い歓声が飛び交っている。

 エルウッドはというと、舞台袖に立って出番を待っていた。控え室からぴょこんと顔を覗かせたフィーが、こちらに向かって親指を立てる。


「まさか俺が、こんな場所に立つことになるなんて」


 邪竜退治の旅に出た時からは想像もつかない。あの時はただひたすらに、虐げられる人々の力になりたくて立ち上がった。

 今回も王国の未来のため、という意味では同じである。少なくとも、あのグレンという冒険者のような男が王配になるようでは、サンドラ王国の未来は暗い。絶対に阻止しなければならない。

 やがて、大会の司会進行役が舞台に現れた。


「皆様、大変長らくお待たせいたしました! これより王配決定戦こと第1回、サンドラ王国アイリス杯を開催します!』


 司会者がマイクを使って叫ぶと、観客たちからさらなる歓声が上がった。


「今回の大会は特別ルールとなっております! なんと本大会は参加資格が男性のみに限定されております! それ以外は一切制限がありません!」

「おおおおおっ!!」

「まずは大会ルールを説明しましょう! 大会のルールは簡単! 予選を勝ち抜いた出場者の中から、最後に決勝戦を行い、優勝者を決めます! 優勝者は国王陛下よりアイリス王女殿下との婚姻権を授与され、晴れて王配となることが決定致します!」


 観客たちは興奮して盛り上がる。この大会は多くの国民が注目している一大イベントだ。優勝者はアイリス王女の婚約者、すなわち王配となる。アイリス王女は一人娘だから、王配はこの国の最高権力者となれるわけである。

 国中から腕自慢の者が志願し、王女の婚約者の座を虎視眈々と狙っている。王国民としては見過ごせないイベントである。恐らく影では賭けの対象にもなっているだろう。


「では早速第一回戦を開始しましょう! 第一試合、冒険者ギルドのエース、グレン・テニエル選手!」


 最初に呼ばれたのは、昨日エントリー会場でエルウッドに絡んできた男だった。

 グレンは肉弾戦を得意とするようで、武器を持っていない。試合が始まると格闘術で対戦相手を圧倒し、あっさり駒を進めた。


「なるほど。優勝を宣言するだけの腕はあるということか」

「そうね。でもそんな男に睨まれたということは、エルウッドも優勝候補の一角と認識されているという意味よ」


 エルウッドとフィーは、舞台袖から観戦している。


「第二試合は、傭兵団の団長、ヒューゴ・ガーラント選手!」


 次に呼ばれたのは、大柄な体格をした壮年の男だ。顔にはいくつもの傷跡があり、歴戦の戦士を思わせる風貌をしている。


「さすがは傭兵団を率いているだけはあるわね。強そうだわ」

「そうですね。しかし俺は負けるつもりはありませんよ」

「ええ、なんと言っても邪竜を倒した男ですものね。頑張ってきなさい、エルウッド!」

「はい!」


 フィーに見送られてエルウッドは闘技場の舞台に立つ。


「対戦相手は王国騎士団の若き団長!一度は婚約破棄された男!エルウッド・アスター選手!!」


 エルウッドの登場に、会場が沸き立つ。


「頑張れよ、騎士団長!」

「きゃー! エルウッド様、素敵~!!」

「相手は傭兵団長! 毎日戦ってる傭兵の長だぜ! しかも歴戦の猛者! デスクワークが多い騎士団長に勝てるのか!?」


 司会進行の煽りを受けて、観客席からはヤジが飛んでくる。


「お飾りの騎士野郎は引っ込んでろ!!」

「婚約破棄された癖に大会に出てくるんじゃねえー!!」


 エルウッドは眉一つ動かさず、向かい合う対戦相手を見た。

 ヒューゴはエルウッドよりも頭一つ背が高い。筋肉隆々で、その肉体は鋼のようだ。年齢は五十歳前後といったところである。アイリス王女は十八歳だから、もしヒューゴが優勝したら物凄い年齢差の夫婦になる。


「貴殿が我輩の相手か。随分と若いな」

「あなたも年齢にそぐわずご立派な肉体をお持ちのようで」

「フッ……。我輩の名はヒューゴ・ガーラント。二つ名は『鬼人』である」

「ならばこちらも名乗りましょう。俺の名前はエルウッド・アスター。人からは『邪竜殺し』と呼ばれています」

「……フフフ、面白い! あれほどの恥辱を受けながらも再びこの場に立とうとした勇気、見事なものである!」

「ヒューゴ・ガーランド殿。構えを見ただけで分かります、相当の手練れとお見受けしました。相手に取って不足はありません!」

「左様! 戦士にとって歓声も罵声も全て雑音! 戦いに不要な要素である!」

「同感です!」

「いざ尋常に勝負!」

「参ります!」


 エルウッドとヒューゴは、互いに殺気を放ちながら対峙する。


「両者、準備はよろしいですか? それでは……始めっ!!!」


 開始と同時に、両者は激突した。

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