第37話 騎士団長vs傭兵団長
エルウッドは腰を落として、剣を構える。先に仕掛けたのはエルウッドだ。一瞬で間合いを詰めると、そのまま斬りかかる。
「何、この程度!」
しかしヒューゴは咄嵯に反応して、エルウッドの斬撃を受け止める。
さすがは傭兵団の長である。様子見とはいえ、エルウッドの重い一撃を完全に受け止めた。エルウッドは身を翻して一旦距離を取る。
「やりますね、さすがは傭兵団の団長殿です!」
「そちらこそ。噂に違わぬ実力だ。これは楽しめそうである!」
両者はニヤリと笑う。今度はヒューゴの方から踏み込んだ。ヒューゴの連続攻撃に、今度はエルウッドが防戦に回る番だった。
……やはり強い。ヒューゴは見た目の印象通り、かなりの実力者だった。
「どうした!? その程度か!?」
「まさか!!」
エルウッドは体勢を立て直し、反撃に転じる。二人の間で激しい攻防が続く。
騎士団の団長と傭兵団の団長。異なる戦闘集団の長同士の戦い。武芸の腕を磨いた二人の闘いに、観客たちは圧倒される。
「す、凄い! エルウッドさん、すごいわ!」
「見ろよ、あの闘いっぷりを! あれが婚約破棄された情けない男に見えるか!?」
「まさか! あれは立派な男の姿だ!」
「キャーッ! エル様素敵〜っ!!」
「ヒューゴも負けるなー! 相手は所詮若造だぜー!」
「そうだ、老練なあんたの技を見せてくれー!」
観客たちがエルウッドを鼓舞する。
中にはヒューゴを応援する者もいるが、やはり王都民は日頃から自分たちの生活を守ってくれる騎士団長に肩入れしている者が多い。
激しい打ち合いの末、エルウッドとヒューゴは同時に間合いの外に出る。
「やるな、騎士団長! ここまで追い詰められたのは久方ぶりである!」
「こちらの台詞ですよ、傭兵団長殿! これほどの強者と出会えたことを光栄に思います!」
「クク、それはこちらのセリフでもあるぞ! 貴殿は今まで出会った中でも最高レベルの使い手だ! 我が生涯の好敵手に認定しよう!」
「恐縮です!」
二人は息を整えて睨み合う。若いエルウッドに比べると、ヒューゴの消耗は目に見えて際立っていた。
エルウッドはヒューゴを見据える。打ち合ってみて分かったが、この人は立派な武人だ。あの嫌味な冒険者のグレン・テニエルとは違う。
「ヒューゴ・ガーランド殿、一つお尋ねします。貴公はなぜこの大会に出場したのですか?」
「ふっ、知れたことよ。我輩はもう年だ。傭兵業などあと何年も続けられんであろう。だがこの大会で優勝すれば、我が傭兵団の宣伝にもなる。そして優勝賞金があれば、老後も安心して暮らせるというもの」
「つまり王配の座で手に入る財産が目当てである、ということですか」
「そう受け取ってもらって構わん。我輩も傭兵団を率いる長であり、仲間の未来、生活を考えねばならん立場なのだ」
「確かにそうでしょう。貴公の立場、考えを否定することはできません。ですが同時に騎士団長として、国全体について考えるのではなく、傭兵団を優先する貴公を王配として認めることはできません」
「フッ……つくづく若いな。まあ良い、すべては闘いの結果が示してくれるであろう。我ら戦闘集団の長に必要なのは言葉による納得ではない。闘いの結果である!」
「そうですね、異論はありません!」
二人は武器を構え直した。エルウッドは剣を、ヒューゴは大剣を。どちらもデバフ魔法がかけてあるので、直撃しても相手の命を奪うことはない。
それでもエルウッドは直感した。次の一撃で勝負が決まる、と。
「行くぞ!」
「来い!!」
二人は同時に駆け出す。
闘技場の中央で剣と大剣が激突し、砂埃が舞台を包み込む。
観客たちは息を飲む。会場内の全員が固唾を飲んで見守っていた。
やがて砂埃が消え、舞台の上に光が差し込む。
そこに立っていたのは―――エルウッドだった。
「ヒューゴ・ガーランド殿。見事な技量でした」
「ぐっ……ふ、ははっ……やはり若さには勝てん、か……」
エルウッドは剣を振って鞘に仕舞う。敗北したヒューゴだったが、満足げな笑みを浮かべて倒れた。
『素晴らしい! 素晴らしい試合でした! 第二戦の勝者はエルウッド・アスター選手! 見事傭兵団の団長を降し、婚約破棄の汚名返上を果たしました!! 我らが騎士団長、ここに復活ゥゥーーーッ!!!』
「うおおおっ!!」
「エルウッド様ー!」
「エル様ー! ああっ、素敵ぃ〜っ!」
観客たちは大声援を送ってくれている。
ふと見れば騎士団の部下たちや副団長のアーヴィン、屋敷の執事やメイドたちも観戦に来ていた。エルウッドは彼らの声援に、片腕を掲げて返した。観客に応え終えると、ヒューゴに手を差し伸べる。
「立てますか?」
「無論だ。しかし……完敗である。貴殿は本当に強かった」
「いえ、俺なんかまだまだです。あなたの技量にも学ぶべき事が幾つもありました」
「謙遜する必要はない。貴殿は紛れもなく王国一の剣士だ。もし次に戦う機会があるなら、その時は今度こそ勝たせてもらうぞ」
「はい、楽しみにしています」
「ふははは! 約束であるぞ!」
ヒューゴは豪快に笑って、エルウッドの手を取った。
健闘を称え合う二人の姿に会場はますます湧き、大歓声が巻き上がる。
――だが、そんなやり取りを面白くなさそうに見つめる影が一つ。
舞台袖で自分の試合を待つグレン・テニエルは、忌々しそうに唾を吐き捨てた。
「ケッ、エリート騎士サマにとっちゃあこの大会はスポーツ感覚か。俺様のような底辺出身の冒険者にとっちゃあ一発逆転の大チャンスなのによ! 下らねぇ騎士道精神とやらで台無しにしてほしくないもんだぜ!」
エルウッドとヒューゴの試合を見て腹を立てたグレンは、悪態をつく。
グレンはエルウッドのようなエリートが大嫌いだ。ましてやその相手が、自分が進もうとしている出世街道に立ちはだかるのは我慢ならない。
「潰してやる……! あの野郎だけは、絶対に……ああいう輩が存在している事自体が許せねえ!」
グレンは拳を握りしめ、憎悪の炎を燃やしていた。
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