第33話 恋の悩み
「はあ……」
その日、エルウッドを仕事に送り出した後、フィーは部屋のベッドでごろ寝していた。
今日は調合も読書もする気になれない。最近ずっと心に引っかかっていることがあった。
少し前から自分がおかしい。エルウッドと一緒にいるとドキドキして、暖かい気持ちに満たされて、泣きそうなくらい切なくなる時もある。
これは一体なんだろう。まさかこの気持ちは、恋というものではないだろうか。自分はエルウッドに恋をしているのではないだろうか。悶々と考え込む。
「私、エルウッドのことが好き……なのかしら」
小さく呟いてみる。すると、胸の奥がきゅんと締め付けられて苦しくなった。
「これが、好きってことなのね……」
初めて知った感情に、フィーは戸惑うばかりである。今まで、誰かに好きだと言われたことはあったが、自分の方が恋愛というものに興味がなかった。
だから自分の中のこの気持ちが何を意味するのか分からなかった。しかし気付いてしまった。一度自覚してしまった以上、無視することはもうできない。
「どうすればいいんだろ……」
一人で悶々と悩んでしまう。もう認めるしかない。自分はエルウッドが好きだと。
彼に恋している。愛し始めている。このままずっと一緒にいることができたなら、どんなにいいか。
けれど現実はそう上手くいかない。フィーは普通の女とは違う。そもそも人間ですらない。魔女だ。フィーは起き上がって、窓辺に立つ。
「私は北の森の魔女、フィー。魔女を襲名してヒトであることを捨てた身なのに、今さら人間の男に恋だなんて……」
窓から外の景色を眺めた。いつもと同じ屋敷の庭園が広がっている。
庭園には庭師がいて、厩舎には馬丁がいる。屋敷の使用人たちは忙しくも生き生きと働いている。フィーはそんな彼らを見るのが好きだ。エルウッドの人柄が反映されているようで、特別な光景のように映った。
「私はもう人間じゃないのに……どうして今さら、こんな気持ちが芽生えちゃったのかしら」
思わずため息をつく。人間とは寿命が違う。文化や価値観も違う。考え方も生き方も違う。
だからこそ人間から恐れられ、余計な争いを回避する為に離れて暮らしていた。
自分たちは生きる世界が違う。いずれ別れが来ることが決まっている。人間は人間同士、結ばれるのが一番良いのだ。
フィーは窓を開けて身を乗り出す。ここでの生活に愛着を感じ始めている。ここで過ごす時間が長くなればなるほど、もっと愛着が湧いてしまうだろう。
そうなる前に撤退するべきだ。そろそろ、この辺りが引き際だ。思い切り深呼吸をする。今この瞬間を忘れることがないように、景色を心に焼き付ける。
「よしっ」
フィーは気合いを入れ直す。そして、ここに来た自分の本来の目的を思い出した。
――アイリス王女の次の婚約者を決める武術大会。
エルウッドを婚約破棄しておきながら、あんな大会を国費で開催して後釜を決めるなんてひどい侮辱だ。
だが、考えようによってはチャンスかもしれない。
あの大会を利用して、エルウッドが完全復活した事を王都中に知らしめる。
そしてアイリス王女と復縁させる。さすがに王女との婚約が復活するとなれば、エルウッドも自分の事など忘れるだろう。
胸の奥がチクリと痛むが、その痛みには気付かないフリをした。
「決めた。この大会で私はエルウッドの力になってみせる」
そしてエルウッドと王女が復縁したら、自分は北の森の家に戻る。そしてまた引きこもり生活を満喫しよう。
この二ヶ月間のことは、ちょっと変わった旅行ぐらいに捉えて思い出に変えよう。
そう決意して、フィーは立ち上がった。
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