第31話 フィーの変化

 家に帰るとフィーは、謎の調合素材を食物庫に保管しようとした。さすがにそれは慌てて止める。


「その素材の中には、毒や衛生面での問題がある物もありますよね。万が一毒素が混ざったりしたら大変です。他の場所にしてください」

「それもそうね。じゃあ、仕方ないわ。他の場所で管理するわよ」

「ありがとうございます、別のところに保管してくれるなら構いませんから」

「……ふーん」

「? なんですか?」

「家の中に置くこと自体は許してくれるんだ。気味が悪いとか思わないの?」

「思いませんよ。フィーさんの調合の腕は俺も知っています。調合自体はさっぱり分かりませんが、分からないこそ安易に否定できません。フィーさんが必要な素材だと思うなら、きっと必要なんでしょう。管理さえ気をつけてくれれば問題ありませんよ」

「……そう」


 フィーは機嫌良さそうに微笑んだ。目を細めてエルウッドを見つめている。

 ……何か変なこと言っただろうか?

 エルウッドは彼女の態度の意味が分からなかった。ただ機嫌が良さそうなのは確かだから、深く気にしないことにした。



***



「エルウッドって、本当に私が魔女である事を気にしないのよね。全然怖がったり気持ち悪がったりしないわ」


 自室に戻ったフィーは、ベッドでごろごろしながら昼間の出来事を思い出していた。


「あいつ、なんであんなに優しいのよ」


 枕に頭を押し付けたまま足をばたつかせて悶える。しばらく身悶えて、ようやく落ち着いたフィーは起き上がった。

 エルウッドはフィーが普通の人間とは違うと知った上で、対等に接してくれている。それはフィーにとって嬉しい事であり、戸惑いの理由でもあった。

 フィーは200年間ずっと一人で生きてきた。別に今まで一人でも問題なく生きてこられた。寂しいとは特に思った事もない。それでも久しぶりに人々の中で暮らしてみると、意外と悪くないと思う自分がいた。

 エルウッドはフィーのことを認めてくれている。一緒に暮らしても問題ないと認めてくれている。それが嬉しい。一人でも問題ないが、それでも誰かに認められて受け入れられるのは嬉しいものだ。


「……なんかお礼とかした方がいいのかしら?」


 ふと、フィーはそんなことを考えてしまった。とはいえ、エルウッドは何を喜ぶだろうか。フィーは首を傾げる。

 エルウッドの好きなものとか、欲しいものなんて全く思いつかない。そもそも彼は普段から淡々としていて、あまり感情が表に出ないタイプだ。

 時間ができれば鍛錬するか、仕事をするか、フィーに会いに来るか。それぐらいである。そんなエルウッドが喜びそうなことを想像しよう。


「そういえば人間の男は、好きな女に料理を作ってもらうと嬉しいらしいわね」


 フィーは一人暮らしが長いから料理は得意だ。それに料理は調合と似たところがある。凄腕の調合師であるフィーの得意分野である。


「決めた」


 むくっと身体を起こすと、ベッドから降り立った。

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