第29話 下町でデート
翌日、エルウッドとフィーは王都の街に繰り出していた。
今日のフィーは、フリル付きのブラウスにハイウエストのAラインスカートを履いている。こうして見るとただの美少女だ。とても200歳を超える魔女には見えない。
王都はいつも以上に賑やかだった。道行く人の数も普段より多い気がする。
「人が多いわねえ。王都っていつもこうなの? それともお祭りでもあるの?」
「休日は大体いつもこんな感じですね。祭りは当分ないから……いや、例の大会があるか。あれも祭りと言えば祭りですね」
「例の? ああ、王女様の新婿を決めるってアレね。バカバカしい大会だわ」
「そう言わないでください。王族の結婚は国にとって重要なイベントなんですよ」
「………………」
「なんで睨むんですか?」
「エルウッドはそれで良いの? あんたって一応王女様の元婚約者じゃない。それなのに一方的に婚約破棄されて、その後釜を決めようって大会でしょ? しかも開催費用は国費。バカげてるとしか思えないわ。あんたは腹が立たないの?」
なぜだかフィーの方が怒っているようである。しかしエルウッドは、今となってはどうでも良かった。
王女との婚約が解消したからフィーと出会えた。あの変な大会が開催されることになったから、フィーが会いに来てくれた。そう思えば、むしろ感謝したいぐらいだった。
「俺は王女との結婚にこだわっていたわけではありませんから。結婚したかった訳でもありません。たまたま流れでそうなっていただけです。だから今さら思うところは無いですね」
「……エルウッドって、野心とかはないの?」
「俺が野心で騎士団長になったと思いますか?」
「まさか、全然」
フィーは即答した。エルウッドは苦笑する。やはり彼女は自分のことを理解してくれていると、エルウッドは嬉しくなる。
「俺は出世にあまり興味がありません。自分以外に適任がないからやっているだけです。俺は騎士として人々の役に立ちたい。その思いで団長になりました」
「ふぅん……やっぱりエルウッドは騎士に向いているのよ。騎士団長に向いてるのはサルマンみたいな小物じゃなくて、もっと大きな器を持った人間よ。エルウッドみたいなね」
「俺なんてまだまだですよ」
エルウッドは謙遜するが、フィーは首を横に振る。
「いいえ、あんたはもう立派な騎士よ。サルマンに虐められても屈しなかったし、今回の騎士団の改革だって上手くやってる。あんたならきっと、この王国をより良い国にしてくれると信じてるわ」
「フィーさん……ありがとうございます。俺もフィーさんが傍に居てくれたら頑張れる気がします」
「そう? ならもう少しだけ傍にいてあげるわ」
「本当ですか?」
「ふふん、たまには素直になってあげないと可哀想だしね。ほら、早く行きましょう」
フィーは嬉しそうにエルウッドの腕を引っ張った。それから二人は下町の商店街を訪れた。活気溢れる市場通りには、新鮮な野菜や果物を売る屋台が軒を連ね、食欲をそそる香りが漂ってくる。
「うわあー、すごい人! ねえねえ、エルウッド、あれは何?」
「ああ、あれは焼き鳥屋ですね」
「あの美味しそうな匂いがする串刺しのお肉は何かしら?」
「肉をタレに漬け込んで焼いたものです。食べ歩きしやすいように、パンの間に挟んで売っているのが一般的ですね」
「じゃあそっちは?」
「フルーツジュースの屋台ですね。果実を絞って水で割ったもので、庶民的な味が人気です」
「あっちにあるお店は?」
「アクセサリーショップですね。女性が身に着けるような装飾品を売っています」
「すごーい、この市場だけで何でも揃っちゃうじゃない!」
フィーは初めて目にするものばかりなのか、目を輝かせてあちこち見回している。まるで子供みたいで可愛らしいと、エルウッドは微笑ましく思った。
「あっ、見てエルウッド、これ可愛い!」
フィーは店頭に置いてあるネックレスを手に取った。小さな宝石が散りばめられたシンプルなデザインのものだ。
「気に入ったのならプレゼントしますよ」
「いいの?」
「もちろんです」
「ありがとう、嬉しい!」
フィーは笑顔になると、早速その場で身につけた。白い肌に紫色の宝石がよく似合う。考えてみれば、彼女の瞳の色と同じだ。エルウッドもそのネックレスが気に入った。
「どうかな?」
「似合ってますよ」
「ふふふ、でしょう?」
嬉しそうにはにかむフィーの姿を見ながら、エルウッドはふと思う。
こうして彼女と一緒に過ごす時間が好きだ。彼女と居るだけで、心が満たされていくのを感じる。
ここ最近のエルウッドといえば、王女から一方的に婚約破棄されたり、サルマンに嵌められて騎士団を追放されそうになったり、そうかと思えばサルマンが不正発覚で失脚して急遽繰り上げで騎士団長に任命され、騎士団改革に奔走したり……とにかく大変な毎日だった。
だが今は、フィーが隣に居てくれる。それだけで何もかも報われるような気がする。
「エルウッド、次はどこに行く?」
「そうですね……フィーさんはどこか行ってみたい場所はありますか?」
「私? そうね、調合用素材のお店に行きたいんだけど……お店が開くのは夕方からなのよね。だから、もう少しこの市場を見て回りたいわ。こんな機会滅多にないもの! いいわよね?」
「もちろんです」
エルウッドは微笑んだ。フィーは照れ臭そうに笑うと、再びエルウッドと並んで歩き出した。
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